コロナ禍で楽団の練習や部活動も少なくなり、モチベーションも下がってしまいましたが同時に物理的な練習場所がなくなってしまった方、とても多いと思います。
そんな時に便利なのが「プラクティスミュート」です。
何やら通販番組みたいなスタートになってしまいましたが、実際のところコロナ禍でプラクティスミュート需要が高まったのはレッスンにいらしている生徒さんのお話からも把握しています。
今回はこのプラクティスミュートの使い方についてお話をしますが、実は以前このブログの中でプラクティスミュートについての話題を出しました。
ただ、この時はコロナ騒動の前なので「できればプラクティスミュートをしないで練習しましょう」的な内容でした。もちろんそれは今も変わりません。プラクティスミュートを使わなくても音が出せる環境があるのであれば、それに越したことはありません。しかし、現状はそうもいきませんよね。
ということで、今回は使用する際に気をつけておきたいことをお話していきます。
生徒さんの話
私はプレスト音楽教室というところで講師をしていますが、コロナ禍になって数名の生徒さんの演奏に変化が起きたたことに気づきました。
それは、簡単に言えば音量が1段階大きくなったのです。しかし残念ながらそれは響きが豊かになったとか音楽的に美しいフォルテが出せるようになったというよりも、必要以上に音の密度が高く、聞いていても吹いていても息苦しく、コントロールが制御できていない状態でした。
そこで最近何か変化があったか尋ねると、みなさん共通していたのはプラクティスミュートを使う頻度が多くなったことでした。
空気圧コントロール
トランペットから音を出すことを日本語で「吹く」と言いますが奏者目線で言うなら吹くのではなく「空気を溜める」と言う方が正しいです。体内(肺から口の中まで)に取り込んだ空気の圧力を生み出し、それを変化させることで音を出し、音量や音の高さなど演奏の基本となる条件がコントロールできるのです。
その空気圧は腹筋とアパチュア、舌の状態、さらにはマウスピース、楽器とのバランスによって生まれるもので、その変化と感覚はとても繊細です。
プラクティスミュート
プラクティスミュートがなぜ音量を絞れるのかと言いますと、当然ベルにフタをしているからです。しかしその方法は同時に空気の出口を塞いでいるわけで、結果として空気抵抗が大幅に高まります。空気の出口がほとんどないのですから、いつも通り楽器を演奏している感覚でも、体内に発生する空気抵抗感は異常に上がります。
例えるなら、自転車のペダルがいつもと比較にならないくらい重くなっている状態でしょうか。本来必要なかった筋力や苦労をしているわけですから、この状態で自転車に乗り続けていたら、いざペダルが軽くなった時にペダルへの力の入れる加減がわからなくなり、運転するバランスが取れなくなるのは容易に想像できるでしょう。
自分の話
音大生の頃、お盆や年末年始など長期休暇で学校に入れない時期がありました。お盆はまだしも年末年始というのは年明けすぐにソロを演奏する本番や実技試験が控えていて練習しないわけにはいきません。もう25年も前の話ですから、この頃はカラオケで楽器の練習は認められておらず、公民館なども年末年始は使えません。そこで仕方なく自宅でプラクティスミュートを使ったわけですが、当時の私は上記の知識などまったくなかったため、まあカップミュートみたいなものだろう程度にしか考えずに、でも音が全然鳴ってくれないので、空気圧をこれでもかと高めて音を出していました。
これは私に限らず多くの方が陥る面白い現象ですが、プラクティスミュートは音量を抑えるミュートであるにも関わらず、「鳴らない」と感じてしまうためにしっかりと聴こえるレベルまで音量を上げようとしがちなのです。
その結果、もはや筋力トレーニングのレベルの腹筋により生み出す体内の空気圧によってアパチュアが押し広げられ(大きく開いたアパチュアのほうが鳴って聞こえるので意図的にそうする人も多い)、この状態を感覚的にインプットしてしまい、後日ミュートなしで音が出した時、調子が悪いとかそういう話以前の、もはやどのようにして吹いていたかがわからなくなってしまう、そんな状況に陥る可能性があります。
他人事のように書きましたが全部音大生の頃の私です。私は今でもトランペットを演奏する時のベストバランスというものを感覚的に持つことができない人間で、それを呼び起こすことがとても苦手です。だからこそ毎日のウォームアップが欠かせません。そんな人間ですからプラクティスミュートというのは恐ろしくて使えないのです。
まとめ
まずプラクティスミュートは音を出す際の体内の空気圧が大幅に変化することを理解しましょう。空気圧の感覚はトランペットコントロールの根幹です。それが変わるということはすべてが変わるということを覚えておきましょう。
したがってプラクティスミュート使用時にできることは限られます。例えば本番を想定した曲練習などは絶対に控えるべきです。細かなパッセージとか、リップスラーで歌うこと、タンギングで一つの音を的確に当てること、こうした「プラクティスミュートででできてもミュートなしのopen状態で同じことはできない」と理解しましょう。したがって、ppの中音域ロングトーンなど体に負担をかけないレベルの内容に止めることをおすすめします。
当たり前のことですがプラクティスミュートを装着すれば音量は大幅に減ります。軽く音を出すと静かな空間でやっと聴こえるレベルになります。これを理解して「ほとんど自分の演奏の音は耳に入ってこない」程度であると理解しておきましょう。
このようにしてプラクティスミュートは大変難しい道具ではありますが、決して存在を否定しているわけではありません。楽器のセッティング感覚などを忘れないとか、負担のないメニューと具体的な目的を持っていれば有用です。しかし、連日の使用、長時間の使用はオススメできません。定期的にミュートなしで音を出すようにはしたほうが良いでしょう。
私は自宅でもミュートなしでできる「超pp練習」というのをまとめ、コロナ禍で生徒さんにすすめました。それについてオンライン講習会でもお話しているので、ご興味ありましたらぜひご覧ください。アーカイブはBASEにてお求めていただけます。
ということで今回はプラクティスミュートのお話でした。
また来週!
荻原明(おぎわらあきら)
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