#114.表現の引き出し

『そういえばレッスンで言われた事があって。どうしても音を後押ししちゃう傾向があって指摘を受けたんだけど「それはネガティブに考えず素敵な表現のひとつとして引き出しに持ちつつ、もっと表現のバリエーションを増やしましょう」と言われたのは本当に嬉しいアドバイスだったなぁ。』

以前開催しました特別レッスン(不定期開催の単発レッスン)の後だっと思いますが、レッスン中にお話ししたことをツイートしてくださったのを思い出しました。Yossyさんは現在開催中のオンライン講習会の生徒さん役としてもご協力くださいました。ありがとうございます。


こうやって私がレッスンでお伝えした言葉を覚えていてくださり、トランペットと向き合う際の何らかの力になっているのはとても嬉しいことです。


さて、このレッスンでのやりとりなのですが、Yossyさんがおっしゃるようにこの当時は音の語尾(リリース)に向かってグッと力を込めてしまっておりました。このような表現がクセになっている方、私が知る限り結構いらっしゃいます。このブログをご覧いただいている方の中にも、指揮者や指導者から「後押ししてる」とか「演歌っぽい」と言われた方はその可能性があります。実は私自身も中学生の時に散々指摘されてきたことで、当時はそれが直せませんでした。と言うのも、人のせいにするみたいになってしまいますが、当時吹奏楽部を指導されていた方は、厳しい指摘はたくさんするのですが、なぜそれが起こるのか、そしてどのようにすれば解決するのか、という指導において最も重要な部分がなかったのです。「できていないからできるようしろ」と言うのはあまりにも無責任ですね。直せるわけがない。


そんな中学時代の経験もあるので、つい後押ししてしまうのはよくわかります。今回のお話しは、この後押し解決話ではないので、ごく簡単に解説しますと、腹筋をメインコントローラーとして演奏時使用してしまうタイプの方がなりがちです。私のレッスンでの言い方ですが、腹筋は原則として「主電源」であり、音を出すという点に関して言えばここをコントロールして音を区切ったりリリースするのではない、と考えています(腹筋をサポートとして使った演奏表現はあります)。


あとは、フレーズ以上に「拍」を強く感じて演奏表現をしてしまうと起こりやすい現象でもあります。このお話しについてはまた後日このブログで書いてみたいと思います。


全てが表現方法のひとつ

音を押してリリースする演奏は、確かに一般的に否定されることが多い表現だと思いますし、それがふさわしい場面は限られています。ここでひとつ指導者の方には特に覚えておいていただきたいのが、こうした演奏方法も含めて表現できることはすべて可能性のひとつである、という点。リリースを押してしまう演奏を「演歌っぽい」などと言うわけですから、それは言ってしまえば演歌であれば「ふさわしい」可能性があるわけです。したがって、その表現自体を単に否定するのは違うのです。


問題は伝え方

「それはダメ」「やってはいけない」という否定系やmust的表現は人間の行動を意識的に制御して不自由な状態にしてしまいます。そうすると、演奏する際に本来必要であった体の機能を理性と曖昧な知識によって使わないように頑張ってしまう可能性が高まります。したがって、伝える際には抑制させるのではなく、


「今この場では楽曲にそぐわない表現だったとしても、その演奏は表現方法のひとつとして認め、この場に相応しい新しい表現方法を手に入れる」


この発想を持たせられるよう伝えてみましょう。


演奏表現のスキルを私は「引き出し」と言っています。リリースに限らずタンギングでもフレージングでも体を使ってできることはすべて表現方法のひとつと考えて、たくさん持っていられるようにすべきです。それらを場面に応じて最もふさわしいものをチョイスできりようにするわけです。

そのためにはマジョリティ、一般的、最も多く使われる「基本」と言われるものが(ジャンルによって変わりますが)必ずあり、それを理解することが大切です。指導者が生徒さんに対して「今のその吹き方はダメだ(捨ててしまえ)」というのと、「それはそれで大切に持っておき、こんな表現も手に入れちゃいましょう!」というのでは生徒さんの意欲、ワクワク感が全然違います。


ぜひ指導する方にはそうした配慮を持ってほしいですし、生徒さんはもし指導者に否定的でネガティブな言い方をされたとしても、適当に流して今回のお話のように引き出しを増やす意識で取り組むように心がけてください。それだけでも練習が楽しくなると思います。


音楽はまず楽しくなければいけません!

ということでまた来週です!



荻原明(おぎわらあきら)

7/31(土)オンラインレッスン形式によるトランペット講習会開催

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ラッパの吹き方:Re

隔週土曜日の朝更新トランペットと音楽についてのブログ「ラッパの吹き方:Re」 タイトルの「Re」は「Reconstruction(再構築)」とか「Rewrite(書き直し)」の意。 なので「ラッパの吹き方 ”リ”」と読んでください。 荻原明(おぎわらあきら):トランペット奏者、東京音楽大学講師、プレスト音楽教室講師