中学生になって初めて吹奏楽とトランペットに出会った私ですが、小学生までは音楽なんてまったく関わりのない人生だったため、実は結構長い間、楽譜がきちんと読めないまま合奏をしていました。
その間どうやって演奏していたかというと、運指は暗記。これは運指表を照らし合わせればわかることなので、覚えるのはそんなに大変ではありませんでした。しかしリズムはそうもいきませんでした。全然わからない。
一般的に音楽の初心者が楽譜を読めるようになるための段取りとして、簡単でシンプルなリズムの連続を、だんだん細かな音価にして、それらを組み合わせたパターンを覚えていくのがスムーズだと思いますが、吹奏楽部ではそんな悠長なことやってられません。もういきなりコンクールだとか何だと忙しいので、教えてくれる人もいませんし、演奏する曲は難しいし。
で、どうしたかというと演奏する曲の音源を探しまくりました。今みたいにYouTubeだとかiTunesのサブスクだとかありませんからCDを手に入れて聴きまくって覚えてしまう。そして部活で再現する。もうずっとこの繰り返しでした。
と、この話はいろんなところでしているのでご存知の方もいらっしゃったかもしれませんが、今回の話題「個性とは何か」に関係していると思ったのでまたお話ししてみました。
個性とは
個性というのは何もないところからは生まれない、というのが持論です。生まれ持った素質とかもないと思います(特定の何かに関する有利/不利になる先天的な肉体的特徴はあると思っています)。その人らしさ、というのは育ってきた環境によるものだと考えていて、自分の中から生み出したものや個性と言われるものは、そうした経験の蓄積のいくつかが組み合わせを変えて出てきたものであり、無の状態から発生した完全オリジナルではありません。
ということは、音楽における個性も、それまでに出会ってきた音楽、人、その他環境から生まれてくるのであって、どれだけたくさんの経験をしたかが大きな要因になると考えます。
その点で言えば、私は偶然にも楽譜が読めなかった分、東京佼成ウインドなどのたくさんのいわゆるプロの演奏を聴きまくった経験が、本来「楽譜のリズムを知る」ことが目的だったにも関わらず、音色や表現、収録されている沢山の作品を知るなど、多くの付加的に手に入れられたものがあったわけです。これらが自然と自分の個性を生み出す材料として蓄積されていたわけです。
そんな感じで演奏をしているうちに、少しずつ楽譜の理屈がわかるようになり、人並みにリズムが読めるようになったと自覚したのは実は高校生になってからです。楽譜を正しく読むことが大切ではありますが、それに縛られ過ぎて肝心の音楽を表現することに気づけないよりかは良かったと思うのですが、ただ、特定の音源ばかりを聴き続けていると「そう演奏しなければならない」と勘違いしたインプットをしてしまうので、注意が必要です。実はこうした副作用に悩まされた時期が高校からだいぶ長い間続いていたのです。
一度演奏した経験のある作品を違う場所、違うメンバーなど環境や時間の経過がある場面で演奏する際も同じような注意が必要です。同じ作品が同じ解釈で演奏されることはまずありえない、と考えて新しい作品に臨む姿勢で演奏しなければいけません。
楽譜は作曲者のメモであり、この情報の中から作曲者がイメージしていたであろう美しい演奏表現を感じて歌い上げたり、自分が「こう演奏したい」「こうすることが最も作品が活きる」などと表現を加えることで個性のある音楽が生まれるのだ、とわかると、楽譜を読むことが楽しくなりました。「自分が『良い』と思う表現」は、前述のようにたくさん聞いてマネしてきた沢山のプロの演奏から生まれてきたものです。当然CDのように上手には演奏できませんでしたが、脳内で再生されている理想の音や演奏は常にありましたから、「もっと上手に、もっと音源みたいな演奏をしたい!」と思い続けて日々の練習をしていたことが成長を促してくれたと思っています。
個性的な演奏は共感してくださる方がいる一方で「あなたの音はあまり好きではない」という反応も生まれます。全員が全員同じ意見にならない、これも聴衆の個性から生まれるものですから、「自分の演奏を否定された」と思うのではなく、当然であると捉えるべきです。ただし、あまりに多くの人が好きになってくれなかったり、自分でも納得いかない、もっと改善すべきだと思うのであれば、研究や練習にさらに励むべきだと思います。成長する意思は一生持ち続けておくことが大切です。
ということで今回は「個性」について考えてみました。
それではまた来週!
荻原明(おぎわらあきら)
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