前回より教則本についてのお話をしております。ぜひ前回の記事も合わせてお読みください。
教則本の趣旨を理解する
では、この楽譜をご覧ください。
この楽譜は、「アーバン金管教則本」に掲載されている「最初の練習曲」の中の1つです(スマホなどで表示されない場合はタップしていただくと見られます)。
経験年数などもあるとは思いますが、アーバンの中では比較的簡単なものだと思いますから、多くの方にとって音を並べるだけであればそれほど苦戦することもないでしょう。
しかし、前述のように教則本には作者の意図や目的が必ずあります。それを理解した上で演奏し、アーバンさんに聴いてもらってOKをもらえるか、まずこれが目標になります。
とはいえ、アーバンさんはだいぶ昔にお亡くなりになられてますから、実際にレッスンを受けることもできません。
幸いなことにこの教則本には解説がありまして、この部分がどのような意図を持って書かれていたかも記されています。
アーバンさん自身はこの部分を「タンギングのクオリティアップ」を目的として書いたそうです。
ですから、クサビ型のいわゆるスタッカッティシモが書かれていたりと、各音を明確に発音するようにしているわけです。通常であればスタッカッティシモは非常に音を短くする指示記号ですが、この場合は明確なタンギングを要求する記号として使用している、と私は解釈しています。そうした作者によるアーティキュレーション記号の使い方についても、きちんと調べておかないと趣旨から外れた練習をしてしまう可能性が出るわけです(解釈は一例です)。
したがって、タンギングのクオリティアップを図る目的でこの曲を練習するのは当然のことですが、それだけで終わらせてしまうのはもったいないのです。
自分で解釈しても良いのが教則本
私は音楽教室のレッスンでも、音大のレッスンでもこの部分、必ず使用しています。しかし、そのテーマはタンギングだけではありません。音色のクオリティ、テンポやビートの捉え方、セッティングルーティン、フレーズの捉え方、歌い方、音域変化のコントロール、ヴィブラートなど、使おうと思えばかなりの使い道があります。まさに万能な道具。
教則本というのはどんなものであってもその目的を変え、そしてそれに見合った演奏方法に変えてしまって良いものと考えています。例えば指定テンポが書いてあるからと言って、絶対にそれを守らなければならないわけではありません。場合によっては倍以上変えてしまっても良いわけです(そう言った何かの目的や趣旨があれば)。ほかにも変えられるものとしては、
アーティキュレーション
フレージング(スラーの付け方など)
ダイナミクス(強弱)リズム、音価
スタイル
など。
もしこれらを全て用いるなら、アーバンの1曲だけでも何十通り、何百通りの完成形が生まれるわけです。
このようにして教則本は使い尽くすことが大切だと考えています。
フィードバックが大切
それぞれの目的や目標に応じて演奏したら、どこが良かったか、どこが納得いかなかったか、イメージと違ったか、本来はどうありたかったのかなど、必ずフィードバックを行います。フィードバックや反省という言葉は日本人は特に「悪いことを挙げる」ことばかり考えがちですが、良いところも必ず見つけましょう。良いところをさらに良くする、そんな発想のほうがむしろ健康的です。そうしたフィードバックをした上で、もう一度演奏するわけですがその際に、もっとこうしたい、こんなことに気をつけよう、などの「さらに成長するための次」を考えます。
練習において、楽譜通りできなかったから何度も何度も吹きまくる、というのが最も意味のない時間で、しかし同時に多くの方が陥ってしまう状態でもあります。これは根性論から生まれるものですが、むやみに自分を追い込む状況を作るのが好きな方(無自覚)が結構多いので注意してください。
しかし、このフィードバックが最も難しいです。演奏している本人は今の演奏がどのようなものだったか、客観視するのが大変です。対策としては録音をしてみる、というのも良いと思います。そして、やはり最も効率的なのが個人レッスンを受けることだと思います。
個人レッスンは自分の気づかないところも見つけて指摘してくれるなど、いわば演奏レベルの成長をプロデュースしてくれるようなものですから、本当に成長を目指すならばおすすめです。
まとめ
ということで教則本について書いてみました。上達を目指すための道具を有効に使って欲しいのですが、教則本には目的や趣旨があるわけですから、当然レベルの違いもあります。奏者によってその「道具」を使いこなせるかどうかも変わってくるので、自分の今のレベルにあった教則本を選ぶようにしましょう。
ということで、また次回です!
荻原明(おぎわらあきら)
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