#143.指導先で逆ギレされた話

最初に言っておきますが、このトップ画像みたいな大騒ぎとかじゃないですので。


みなさんが今演奏している楽譜には音符だけでなく様々な記号が書かれています。

例えば、フォルテやピアノと言った強弱記号。

楽譜のある部分にフォルテが書かれていたら、当然「強い音で演奏しよう」とか「大きな音量で演奏しよう」とか、そうしたイメージを持って演奏するはずです。

決して間違っていませんが、実はこれ、楽譜の情報の受け取りとしては不十分です。


では視点を変えて、あなたが作曲家だったとしましょう。あなたの頭の中に生まれた作品を楽譜に記して行きます。メロディは、コード進行は、ベースラインは、打楽器は…。その楽譜のとある場面にあなたは”f(フォルテ)"を書き込みました。その記号、誰に向けて書いたのでしょうか。


ひとつは演奏者でしょう。「ここはフォルテだからね(間違えないで、よろしくね)」というメッセージを込めて書いたのでしょう。しかし、そこで終わりではありません。なぜ演奏者に向けてフォルテの記号を書いたのかと言えば、その場面をフォルテで演奏してもらうことで、聴く人に自分の創造した音楽を誤解なく伝わってほしいからなのです。これを意外に忘れがち。


ではまた視点を演奏者に戻しましょう。もう一度確認します。楽譜のとある部分にフォルテの記号があったら、あなたはどのように演奏しますか?もうお分かりですね。


作曲者のイメージを推測して、聴く人にそれを伝えようと考え、演奏するわけです。


演奏者は、「楽譜に書いてあるからその通り演奏しました」ではなく、聴く人へ伝える意思を持ち、伝える努力をすることが大切なのです。


逆ギレされたお話

そこでちょっと面白いお話をひとつ。部活の指導をしていた際、私は「その部分はスタッカートが書いてあるから、歯切れ良く演奏してみよう」と伝えたところ、その子から「やってます!」と逆ギレされたことがあります。まさかそうくるとは思ってなく、少々狼狽しましたが気を取り直して、全員にお話しました。


「自分がやってるという自覚を持っていても、聴く人にそれが伝わっていなければやっていないのと同じです」と。


まさにこれが、今回のテーマです。楽譜に書かれていることすべては「聴く人へ伝わるかどうか」が重要であり、そうした観点から自分の演奏表現を高める練習や工夫が必要なのです。


練習というと楽譜に書かれている情報、特にテンポ、リズム、音程などを正確に再現することばかりに目が行きますが、作曲者がどんなイメージを持ってその場面の楽譜を書いたのか、自分はその場面をどのように演奏したいのか、そして、そのイメージを聴く人に的確に伝えるにはどんな演奏をすべきか、それを実現することも大切な練習と言えます。みなさんはそうした目的での練習、されていますか?


ということで、ぜひみなさんの手元にある楽譜をもう一度見て、楽譜の中に込められたメッセージをイメージしてみましょう。それができるようになれば、きっと今よりももっと深く、説得力のある演奏ができるようになると思います。


荻原明(おぎわらあきら)

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ラッパの吹き方:Re

隔週土曜日の朝更新トランペットと音楽についてのブログ「ラッパの吹き方:Re」 タイトルの「Re」は「Reconstruction(再構築)」とか「Rewrite(書き直し)」の意。 なので「ラッパの吹き方 ”リ”」と読んでください。 荻原明(おぎわらあきら):トランペット奏者、東京音楽大学講師、プレスト音楽教室講師