#145.「楽しい」と「楽しい」

「楽しい」という言葉には様々な意味が込められています。友達と遊んでいて楽しい、やりがいのある仕事をしている時が楽しい、食事をしながらの会話が楽しい、趣味に没頭している時間が楽しい。


これら「楽しい」はすべて自分へと向けられた言葉です。自分が楽しい、という意味で使われています。


「趣味に没頭していて楽しい」があるように、楽器の演奏も、スタートはまずここからです。音が出せるようになって楽しい、音階が吹けるようになって楽しい、曲が演奏できて楽しい、合奏に参加するのが楽しい。


趣味で演奏活動をされている方は、部活動の時間、週末の楽団の合奏が楽しみの方、カラオケボックスや公園で自分の吹きたい曲を演奏する楽しさや、演奏動画をYouTubeで公開することが楽しい方もいらっしゃると思います。これはすべて「自分が楽しい」が意識の中心にあります。趣味とはそういうものです。


一方で、いわゆるプロと呼ばれる立場の人、もしくはプロ奏者を目指す音大生などは、自身のパフォーマンスで聴く人を「楽しませる」力を持っている必要があります。自身の演奏で楽しんでくれる人がいる、そこから生まれる充足感、やりがいによる「楽しい」。趣味ではなく仕事になると、ここが変わってきます。


同じ「楽しい」という言葉ですが、中身はかなり違います。


「楽しい」と「楽しい」の間にある過酷なゾーン

「楽しい」と言う言葉は、楽観的に捉えがちなので補足しておきますが、「楽しい」には「真剣に取り組む姿勢」とか「やりがい」とか「目指すものがある」「確実なものを提供する」などの精神も含まれています。プロやプロを目指す人が持っている必要のある「聴く人に楽しいと感じてもらえる」楽しさを手に入れるのは容易ではありません。この「楽しい」領域に入るには、必ず一度過酷なゾーンに踏み込まなければならないのです。


言うならばそこは未開発のジャングルで、一度足を踏み入れると、迷子になったり抜け出せなかったり、(精神的に)苦しさを覚えます。ここを抜け出せると、上の「楽しい」ゾーンに辿り着けるのですが、そのために必要なのが「技術」と「知識」と「経験」です。


道を作るために草むらを刈る。これは「技術」です。

どこを向いているのか、どこへ進めば良いかを太陽の角度から導き出す。これは「知識」です。

そのゾーンへ踏み込むこと、進んでこそ見えるもの、体験できること。これが「経験」です。


音楽に置き換えると、およそこうなります。

技術:どんな曲でも演奏できるように練習する

知識:楽典やソルフェージュ、歴史、楽器を知る、音楽について考える

経験:演奏をする、コンサートを聴く、レッスンを受ける


こうしたスキルを身に付けることで少しずつ上にある「楽しい」に近づけるようになります。


プロを目指す方へ

これから音大や音高へ進学しようと考えている方、プロを目指して日々頑張っている音大生の方は特に知っておいてほしいのですが、部活で仲間と楽器を吹いて、定期演奏会のステージでパフォーマンスをする。こうした「楽しい」経験を高校を卒業しても続けていたいと考えるのは素敵なことですが、その「楽しい」は趣味でやっている人が経験しているものです。プロになること、音楽を追求することは、その「楽しい」ゾーンから一度離れて、技術、知識、経験スキルを手に入れるために過酷なゾーンに足を踏み入れる必要があります。そこで切磋琢磨した先に次のステージの「楽しい」が待っていることを理解しておかなければなりません。


そうしないと苦しさが上回って「音楽が楽しくない」「こんなはずじゃなかった」と後悔することになります。


別に脅かしているわけではありません。本気で取り組むことで得られる喜びがありますよ、というお話でした。


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