#150.新しい楽譜を手にした時、いきなりYouTubeで検索しないほうが良いその理由とは

前回の記事ブログでは楽譜を手にしたらすぐに演奏せず、楽譜に書かれている情報をたくさん手に入れて、演奏イメージを固めてから楽器で演奏しましょう、というお話をしました。まだお読み出ない方はぜひそちらもご覧ください。

さて今回のお話も前回同様、楽器経験が長い方など、少々演奏経験値が高い方の目線で書かせていただきます。したがって、ご自身のレベルに合わせて「これは将来的な目標として覚えておこう」など、取捨選択をしていただきながらお読みただけると幸いです。


いきなりYouTube検索をしないほうが良い理由

みなさん、新しい楽譜を渡されて、早速YouTubeを立ち上げて検索してる方、多いのではないかと思います。


この「まず音源を聴く」行為、特にクラシック音楽においては止めた方が良いです。あなたの演奏の魅力が開花しないからです。


[クラシック音楽に「オリジナル」は存在しない]

ポップス音楽ではたびたび「カバー」という言葉が使われます。これは誰かの元歌を他のアーティストが歌うことを指します。


では、クラシック音楽はいかがでしょうか。クラシックの元歌?元演奏ってどれでしょうか。初演?自作自演?そう考えてみると、クラシックには明確な「オリジナル」は存在しませんね。強いて言うなら、作曲者の頭の中にあるのがオリジナルでしょうか。しかし、それを明確に知ることはほとんど不可能です。


だからこその魅力がクラシック音楽はあります。作曲者が楽譜に記したものを奏者それぞれの解釈やイメージを加えることによって何度も新しく生まれてくる。そうして生まれた演奏表現に対し「この演奏が正しい」「この演奏は間違っている」と一概に言えないのです。みんなちがってみんないい、って感じでしょうか。


[受動的イメージの危険性]

楽譜を渡されて、まず音源を聴いてしまうと、その演奏が誰であれどうであれ「なるほど、この作品はこのように演奏されるものなのか」と少なからず認識しがちです。このような受け身の姿勢でイメージを持ってしまうのは、単なる劣化コピーになりかねないため、残念ながらクラシック音楽としての魅力が半減、いや、それ以上であると言わざるを得ません。


例えばテンポひとつ取っても、いきなり音源を聴いてしまったら「そのテンポで演奏するものなのか」と自身のイマジネーションが一切働かない状態で「そういうもの」と認識してしまうわけです。本来であれば「Allegro」と書いてあったら、その言葉の意味から元気な演奏、楽しい演奏(かもしれない)と想定して、楽譜を読んでみる。そのような自分が最もしっくりくるテンポ感を求め、考える行為こそがクラシック音楽においては重要なのです。テンポは、単なるコンピューターやメトロノームが生み出すBPMなどではなく、そのテンポから生まれる音楽表現、雰囲気、意思などの要素が込められた存在です。


[音源の上手い下手は関係ない]

だったら一流の奏者の演奏であれば良いのか、と言えば、これまでのお話しを読んでいただければ当然違いますね。演奏の上手い下手ではなくて、まずは自分で楽譜の情報を調べて理解し、そしてイメージし、暫定で良いので決定して演奏すべきなのです。


クラシックの音源は、見本演奏ではありません。その奏者がどのように解釈したのか、その奏者の表現や音色を楽しむためにあるのです。


ですから、たくさんの奏者の同じ作品の演奏を聴き比べて「この演奏良い!」とか「こんな演奏してみたい!」と琴線に触れる奏者や表現に出会うこと、それを目指にしていくことは大切です。問題なのは、何も考えずに音源のコピー演奏や真似をする行為です。



ということで、最初は大変に思うかもしれませんが、まずは音源などを一切聴かずに、楽譜の情報だけで演奏する習慣を持つようにしてみましょう。そうすることで表現力や想像力がものすごく豊かになると思います。


そして十分自分の中で作品を理解したその後に、いくつもの音源を聴いてみてください。「なるほど、そういう解釈もあるのか!」と客観的な聴き方ができ、良い影響を受けるるはずです。


それでは、また次回です!



荻原明(おぎわらあきら)

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隔週土曜日の朝更新トランペットと音楽についてのブログ「ラッパの吹き方:Re」 タイトルの「Re」は「Reconstruction(再構築)」とか「Rewrite(書き直し)」の意。 なので「ラッパの吹き方 ”リ”」と読んでください。 荻原明(おぎわらあきら):トランペット奏者、東京音楽大学講師、プレスト音楽教室講師