「トランペットをやってます」と話すと、一般の方から必ずと言っていいほど「肺活量、すごいんでしょ?」と聞かれます。多分皆さんもそうですよね。
・トランペットはたくさんの息が必要
・肺活量が多いほどトランペットに向いている
・沢山吸って
・沢山吐いて
・楽器に息をたくさん入れて
・空気はタダなんだからどんどん使って
多分、このイメージが生まれた元は、ディズニーとか、昔のアニメ、マンガなどでラッパを吹くシーンで顔を真っ赤に、ほっぺたをパンパンにして苦しそうに一生懸命吹いている、そんなシーンが脳裏に焼き付いているからだと推測します。
肺活量検査
以前病院で肺活量検査なるものを受けたことがあります。太めの筒を咥えて思い切り吸って、思い切り吐く。肺活量というのは、一回で行える呼気の最大値で、それを計測する肺機能の検査だそうです。
実はこの時、上手に計測できなかったのか、そもそもの肺活量がとても少ないのかわかりませんが、思い切り吐く、という行為を日常全然しないどころか、楽器を演奏している気分になってしまったのもあって看護師さんに「こんな数値あり得ないからもう一回」と、2回やらされました。それにしても肺活量全然ないようです。
本当に肺活量はトランペットに必要?
そんな僕ですが毎日元気にトランペットを吹けています。
ここまで書けばもうおわかりでしょう。トランペットから音を出す上で、肺活量というのは一切関係がないのです。
音の出る原理について考えてみましょう。トランペットは唇を振動させて音を出すわけですが、その振動というのは唇の間に作られた穴、アパチュアに空気の流れが発生するからです。この空気の流れは量が多ければ良いわけでなく、アパチュアに空気がバランス良く流れることが重要なのです。
したがって、唇の反応をよくするにはどちらかと言えば空気の量をセーブしたほうが良く、「沢山吸って沢山吐く」という認識を持っていたり、指導者がそれを促したりすると、別の間違った唇の振動を発生させてしまう可能性が出てきます。やっかいなのは、一応それでも音が出てしまうために「トランペットから音を出すには大量の空気を楽器に流し込む必要がある」と勘違いしてしまうことがあるのですが、この方法だとすぐバテてしまったり、ピッチが安定しなかったり、小さな音、軽い音が出せなかったりと、いろいろな苦労をしてしまうことになります。
トランペットの歴史から考える
トランペットは、はるか昔、紀元前にさかのぼるほど古い時代から存在していました。その頃のトランペットが楽器として存在していたかはわかりませんが、「大きな音で何かを伝達する」という道具であったことは十分考えられます。例えば「王様が入場するぞ」とか「戦争開始の合図」とか、「こっちに獲物がいたぞ(狩猟)」など。
道具というのは、人間が苦労しなくても目的を遂行できるために作られたものですから、この場合は「頑張って叫ばなくても、トランペットがあれば『楽に』大きな音を出すことができる」という目的で作られた、と考えるのが妥当です。
現在のトランペットもこの発想が元になっているはずですから、よく鳴る音を出そうとして、顔を真っ赤にして頭がクラクラするほど楽器に空気を流し込む苦労する吹き方が正しいとは到底考えられませんよね。
肺活量が必要な場面
肺活量が多いことは悪いわけではありません。例えば、長いフレーズを演奏する場合は当然便利です。ただし、ブレスは悪いことではありません。音楽の中に呼吸という存在が含まれてこそ、人間らしい演奏になると考えますので、その点は勘違いしないように気をつけてください。
肺活量で楽器を決めないで!
実際に目にしたわけではありませんが、部活動で楽器決めをする際、肺活量が少ないと金管楽器をやらせてくれない、という判断基準を持っているところがあると聞きます。今回のお話しでわかったと思いますが、そんな基準はまったく根拠がありません。トランペットを演奏する上での最も重要なことはバランスの良いブレスコントロールなのであって、大量の空気ではないのです。もしまだこんな楽器の決め方をしているところがあったら、良い加減やめましょうね。
ということで、今回は肺活量についてのお話しでした。
まだまだトランペットは勘違いされていることが沢山ある楽器です。冷静に、原理から考えてみれそんなに複雑なことを必要としているわけではありません。正しく、意味のある解釈を持つようにしていきましょう。
それでは、また次回です!
荻原明(おぎわらあきら)
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