#165.電波の送受信

テレビを見なくなって久しいですが、多分今もやっているであろう政治家の討論番組。ご覧になったことありますか?

良い歳した大人が自分の意見を押し通そうとギャアギャアわめいています。


「みっともないなあ」「うるさいなあ」と思う方が多いはずです。しかし、あそこまで酷くないにしても、実は結構それに近い合奏やアンサンブルをしている可能性があるのです。今日は「音を聴く」について考えてみましょう。


[音を聴く=受信]

合奏ではよく「他の奏者の音を良く聴きましょう」という言葉を耳にします。多くの人は合奏やアンサンブルをしている際、他の奏者の音を聴こうとしていると思いますし、実際に聴いていると思います。しかしそれでもなお、「良く聴いて!」と指揮者から指摘され、「ちゃんと聴いてるよ!」と思ったこと、ありませんか?

指揮者や指導者がイジワルしているとは考えにくいですよね。ですから、実際何かが「合っていない」のです。


まずこの場合、それぞれの思う「聴く」という単語の解釈と実際にしていることが違うのだと考えてみます。


例えが適切かわかりませんが、講演会って話を聞いている最中は感心したり共感したり驚いたりと、とても良い話を聞いたを感じるのですが、終わってからどのような話だったか具体的に説明するのは結構難しいものです。他にも、学校の授業で先生の話をしっかり聞いていたのに、問題を解こうとしたらわからなかった、なんてことも私自身経験があります。これらは聴覚を働かせて音声を耳で捉えているだけの状態で、「理解する」意識が働いていないのだと思います。街を歩いていて車の音、他の人の会話、商店街のスピーカーから聞こえるBGMなどは耳に入っているけれど、意識していない、いわゆる「耳を傾けている」状態ではないのです。


他にもJ-Popなどの歌詞のある知らない曲を聴いた時、歌詞がほとんど頭に残っていないこと、ありませんか?私がそうなんですが、メロディとか、全体のサウンドやリズムに耳が向かってしまい、歌詞が入ってこないんです。だから逆に「歌詞をじっくり聴こう」という意思を持って同じ曲を聴くと、今度はバンド全体の音があまり耳に入らず、日本語が頭の中に浮かんできて、どんなメッセージが込められているのかが見えてきます。器用な人は一度に両方耳で捉えることができるのかもしれませんが、私はこんな感じです。


このように「聞く」と一口に言っても、聴覚だけが働いているのか、脳まで情報を到達させようとするかではかなり違うのです。


これを「受信力の強さ」と言い換えることができます。


合奏をしている最中、自分の演奏をしながら他の楽器が何をしているのか、どれくらい耳に入れられるか試してみてください。演奏しながらが難しい場合は、演奏していない場面でチャレンジしてみましょう。耳の奥までさまざまな音が流れ込んでくる感覚になれたら受信力が強くなってきています。


[音を伝える=送信]

一方で、一緒に演奏をしている他の人たちに自分が何をしているのかを伝えることも大切です。


先ほど討論番組的の話をしましたが、奏者それぞれが好き勝手に自分のパートに書いてある音を並べてしまえば、会話にもならないし、何が言いたいのかお客さんは全然わかりません。音楽的に言えば、バランスも方向性もリズムも音色も寄り添おうとしない演奏になってしまうのです。


だからと言って、自分の考え(パート譜に与えられた自分の役割や自分自身のイメージ)を出さずに他の人の話に全部合わせてしまう忖度しすぎな演奏も良くありません。2ndや3rdを担当したときに勘違いしやすいのがこれです。他にも、他の人に全然聞こえない、伝わらない独り言のような演奏もNGです。

合奏は全員で1つの作品を完成させるために演奏しているのですから、まずはみんなの方向性を理解すること。指揮者のイメージをキャッチすること。その上で自分も周りを掻き乱すわけでもなく、同じ話題、同じノリで楽しく会話に参加することが大切です。場合によっては自分が一番最初に話題提起をしたり、先頭に立って音楽を作っていく役割になるかもしれませんが、根本的な意識の持ち方は変わりません。


このように、自分の演奏を相手に届けようとする意思や、その演奏を「送信力」と言い換えることができます。


[日常的に行なっていること]

こう考えてみると、みなさんは日常的にこんな感じで他の人と会話したり、コミュニケーションを取っているのではないでしょうか。同じ話題で盛り上がったり、相手のお話に耳を傾け共感する。相手に聞いてほしい話がある。伝えたい言葉がある。相手の考えや、今どうしたいのかを察する。場合によっては、自分は同じ意見ではない、などと反論する。自分の考えは違うけれど、それもアリだな、と話を合わせてみる。一緒に笑う、一緒に悲しむ。


アンサンブルはこうしたコミュニケーションを演奏で寄り添っていくことなのです。


音程だテンポだ、ミスしちゃったとか指が回らないとか、いろいろあるかもしれませんが、そうした技術的なことは別として、音楽をみんなとの会話だと思って送信も受信も強く意識してみましょう。そうすれば音楽の完成度は格段に上がります。だれかと一緒に演奏する際、ぜひこのお話を思い出してください。

それではまた次回です!



荻原明(おぎわらあきら)

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ラッパの吹き方:Re

隔週土曜日の朝更新トランペットと音楽についてのブログ「ラッパの吹き方:Re」 タイトルの「Re」は「Reconstruction(再構築)」とか「Rewrite(書き直し)」の意。 なので「ラッパの吹き方 ”リ”」と読んでください。 荻原明(おぎわらあきら):トランペット奏者、東京音楽大学講師、プレスト音楽教室講師