#166.「指揮を見る」とは

前回の記事「165.電波の送受信」では、吹奏楽やアンサンブルにおいて奏者のひとりである自分自身が共演者に対し「自分はこんな演奏をしています!」という強い意志を伝え、同時に、共演者がどのような演奏をしているのかを耳や意識で捉え、受け止めることが大切で、これを「電波の送受信」に例えて解説しました。ぜひご覧ください。

指揮者はプロデューサー

さて、吹奏楽やオーケストラには指揮者の存在が欠かせません。その指揮者は合奏においてどのような存在なのでしょうか。

もしかすると「指揮者の棒の動き=メトロノーム」のような認識で指揮者を見ている人がいるかもしれません。それに部活動や一般団体ですと指揮者はイコール指導者なので少し位置付けが不明瞭なところもありますが、指揮者の本来の仕事は「プロデューサー」であると僕は考えています。

要するに、これから演奏する作品を(今回は)どのように作っていくかをまとめる立場の人です。


音楽は同じ作品であってもテンポ、強弱、フェルマータの長さに至るまで様々な解釈ができます。だからと言って奏者それぞれが好き勝手に演奏してしまったらいつまで経ってもまとまりません。そこで指揮者のプロデュースが重要になるわけです。

とは言え、奏者は指揮者の完全な言いなりではなく、奏者側からも(指揮者の求めている音楽を壊さない範囲で)演奏で提案やアプローチをします。ただし、ソロなど奏者の個性が求められている場合は別としても、やはり基本的には「団体ひとつでひとつの音楽を奏でる楽器」という認識を持っているべきです。


指揮者と奏者の関係

そこで前回の記事と合わせて考えたいのですが、奏者同士の伝場の送受信と、さらに指揮者の存在が追加された場合、どのような電波網が作られるのでしょうか。


指揮者はバンドやオケ全体に自分の演奏表現を伝えようとしています。この電波の発信力は非常に強力で(あって欲しい)、演奏する全ての人へと伝えられていきます。しかし、どれだけ電波が強くても奏者がそれを受信しようとするかにかかってきますから、目と頭(イメージ)を使って指揮者がどのような演奏をしたいのか、的確に読み取る努力が必要です。しかし、これでは、指揮者と奏者が一対一の関係にしかなっておらず、アンサンブルではありません。そこで中継基地を用意してみましょう。


中継基地というのは、携帯電話がわかりやすいと思いますが大元の発信基地から中継基地に受け継がれ、そこから各地域の携帯に電波が届く仕組みです。音楽においても大きな編成で演奏する際は、それぞれのトップ奏者(1stと担当している奏者など)が中継基地となり、指揮者からの発信を強く受け止めます。それぞれの楽器のトップ奏者が、他のトップ奏者と連携を組み、作品の骨格を作っていきます。それと同時に各パートのメンバーにも指揮者の音楽をこのように受信しましたよ!と発信します。

もちろん各奏者が指揮者の音楽を強く受信するのですが、それをどのように具体的な演奏にするかは楽器によって異なりますから、トップの演奏を元に、いわゆる同属アンサンブルをしているわけです。

トップ奏者同士で音楽の骨格を作っている状態は、アンサンブルコンテストでよく使われる「フレキシブル編成」の演奏に似ています。フレキシブル編成の楽譜は、いくつかに分かれたパートそれぞれがいろんな楽器で対応できるので、木管楽器も金管楽器もごちゃまぜでひとつの作品を演奏します。


このように、フレキシブル編成の室内楽と、同属(同じ楽器同士の)アンサンブルが同時に演奏している状態が吹奏楽であったり、オーケストラなのです。


「指揮者を見る」を取り違えないようにしましょう

このようにいくつかの大きな電波があちこちに飛び交い、連携を取って合奏が成立しています。したがって、よく合奏練習の場面で「指揮を見る」という言葉が使われますが、指揮者の何を見ているのか、ただ指揮棒の動きを見てタイミングを合わせているのではなく(というか棒の動きで正確なテンポは見つけられません)、目や表情、体の使い方で音楽をどのように作ろうとしているのかを強く受信するために見るわけです。


いかがでしょうか。少し文章にするとわかりにくい部分もありますが、知って欲しいのは指揮者は人間メトロノームではないのだ、ということ。そして「指揮を見る」というのは「指揮者から音楽を感じ取る」ことなのだ、と理解してもらいたいのです。


合奏時の意識の持ち方、電波の送受信をフルに使って、合奏を楽しんでみましょう。

それではまた次回です!



荻原明(おぎわらあきら)

ツキイチアンサンブル、ツキイチレッスン今後の開催日

ご好評いただいておりますツキイチシリーズ。今後の開催日は、


[アンサンブル]

2月5日(日)14:00-16:00 テーマ:ハーモニーII

3月12日(日)14:00-16:00 テーマ:セッティングルーティン

4月8日(土)14:00-16:00 テーマ:強弱記号(2/15募集開始)


[レッスン]

2月12日(日)14:00-21:00(完売致しました)

3月19日(日)10:00-16:00

4月8日(土)17:00-21:00(2/15募集開始)

4月16日(日)10:00-16:00(2/15募集開始)


です!ツキイチレッスンはグループでも受講可能!ぜひご検討ください!

ご参加はBASEにて承っております。

ラッパの吹き方:Re

隔週土曜日の朝更新トランペットと音楽についてのブログ「ラッパの吹き方:Re」 タイトルの「Re」は「Reconstruction(再構築)」とか「Rewrite(書き直し)」の意。 なので「ラッパの吹き方 ”リ”」と読んでください。 荻原明(おぎわらあきら):トランペット奏者、東京音楽大学講師、プレスト音楽教室講師