みなさんこんにちは!
トランペットを吹く人、教える人の荻原明(おぎわらあきら)です。
アンサンブルの基礎練習
アンサンブル(室内楽)を吹奏楽の延長線上に置いてしまうと、辻褄が合わないことがたくさん出てきてしまいます。前回の記事でもお話したようにアンサンブルでは指揮者がいないなど、奏者の担う仕事や立場が大きく異なるのです。
ですから、アンサンブルの練習方法についても吹奏楽での練習とは異なるアプローチで進みたいところです。
では、室内楽の練習をしましょう!と集まってまず最初に訪れる違和感は、
「え?誰が進行するの?」
「どうやって曲を完成させるの?」
これです。
このままじゃ埒あかないと、多くの場合、先輩が頑張って進行役になったり、指揮者のようにああでもないこうでもないとコメントをしたり頑張ってくれます。要するにこれ、いつも指揮者兼指導者として指揮台に立っている先生の代わりを務めているわけです。
しかし、アンサンブルの場合、指揮者がいないからと言って、誰かが指揮者役になる必要はなく、むしろそうした役職を作ってしまうと「指示(提案)する人」「それを黙って受け取る人」になってしまい、奏者同士のパワーバランスが崩れてしまうのです。
アンサンブルは奏者全員が曲を作り上げていく存在であるべきですから、この発想では演奏の魅力は半減、いやそれ以上減ってしまうでしょう。
ではどう進行すると良いのでしょうか。
今回はそれを解決するため、まずはアンサンブルの基礎練習のひとつの提案をしてまいります。
「基準」を定めるコール&レスポンス練習
まず必要なのは「基準」を定めることです。今回一緒に演奏するメンバーの基本となる方向性を決めるのです。
「決める」というと少々強制的な印象を受けるので、どちらかというとそれぞれがみんなの個性を理解して、受け入れ、寄り添っていく、と言ったほうが適切かもしれません。
そこで提案したいのが「コール&レスポンス」練習です。
コール&レスポンスって聞いたことありますか?よくポップスのライブで、歌手がアドリブで歌ったメロディを即座に客席全員が同じメロディを歌って返す、というもの。YouTubeで検索すると出てくるので、わからない方はご覧ください。
これをアンサンブルメンバーでやりましょう。あ、楽器で。
ひとり代表を決めて前に出て、全員と向き合うようにし、代表が演奏したメロディと同じものを演奏します。ただし、これだけでは可能性が無限にありすぎてハードルが高いので、条件を極限までシンプルにします。例えば、
[条件]
1. B durの音階固有音(B,C,D,Es,F,G,A)のみ使用
2. ゆっくりしたテンポで4/4拍子1小節(ただしメトロノームは使用しない)
3. 4分音符以上の音価のみ
4.全部スラー
など。
この条件に沿ったメロディを前に出た代表の奏者が演奏し、それと全く同じものを向き合った人たち全員で演奏します。少しずつ音の高さを変えるなどして交互に演奏し続けます。
最初のうちはできるだけ同じパターンのメロディを演奏したほうが良いでしょう。また、この練習は敢えてメトロノームは使用しません。あくまでも奏者それぞれの心や頭の中にあるテンポを主張しつつ、寄り添わせていきます。
1セットが終わったら(気が済んだら)代表者を交代し、行います。
コール&レスポンスの効果
演奏者は基本的には楽譜を見て演奏するので、どうしても「楽譜から音楽が生まれる」と思いがちです。だから楽譜に書いてあることを正しく演奏しよう、ミスしないようにしようと意識するあまり、その行為がまるで機械的な「作業」のようになってしまい、みんなでひとつの作品を完成させていくことを忘れがちです。
そこで、楽譜もメトロノームも使用せずに、生まれたばかりのシンプルなメロディをみんなで一緒に演奏することで、音楽を強く感じる集中力を養います。これは代表者もそれに応える他全員もそれぞれが緊張感の中に行う音楽的な基礎練習になることでしょう。
アンサンブルの原点は奏者それぞれがきちんと音楽を主張しつつも相手の音楽も受け入れ、尊重し、寄り添っていくことで生まれてくるのですから、コール&レスポンス練習は大変効果的であると考えています。
アインザッツ
この練習の特徴のひとつはメトロノームを使用しないことです。そもそもテンポというのはメロディやフレーズから自然と生まれてくるもの、と考えているので(多くの人は絶対的なテンポの中にリズムがはめ込まれている、と逆に考えてしまっている)、メトロノームの機械的な反復こそが音楽的なメロディを生み出す邪魔になっているのです(ただし、そうした基礎訓練は必要です)。
今回紹介しているコール&レスポンスの練習では、音楽の基本となる要素はすべて奏者から生み出してほしいので、メトロノームは敢えて使わず、それぞれの持っているテンポ感を主張し、そして寄り添っていくアンサンブルの基礎力も身に付けたいのです。
しかし、基準となる要素が何もないと、大勢でタイミングを合わせるのは難しいですから、視覚的アクションを奏者全員で出します。それが「アインザッツ」です。
アインザッツとは、簡単に言えば指揮者の演奏開始直前の空振りです。重たい荷物を2人で持とうとする時「せーのー」とか、「ジャーンケン」と言うあれがアインザッツです。
音楽では出だしのタイミングを合わせるために「せーのー」と声を出すわけにはいきませんから、体の動きで表現します。今回の練習の場合なら演奏開始前の小節(代表が演奏し始めた)3拍目でほんの少しだけベルを下げ(「せーのー」の「せー」)、4拍目はその反動でほんの少しベルを上げることで(「せーのー」の「のー」)、それが合図やテンポの目安になってとても安心します。
この練習では、アインザッツのアクションを全員が行い、実践で使えるように慣れておきましょう。
アインザッツを出す際、できるだけわかりやすくしようとアクションが非常に大きい奏者がいますが、大きければわかりやすいわけではありません。大切なのは的確さ。素晴らしい一流の指揮者の動きをイメージしてください、アインザッツを出す前は静止しています。もしもアインザッツを出す前にフラフラと棒が動いていると、どこが合図なのかがわからなくなり、演奏者の集中力が散漫になってしまいますし、最悪の場合出だしから崩壊します。
アインザッツを出す奏者は楽器を構えたら全員の演奏準備が整うのを目で確認し、一方で準備が整った奏者は各自アインザッツを出す奏者に対して目で合図をします。次にアインザッツを出すわけですが、合図の動きはその曲想に合わせた雰囲気やおよそのテンポを伝える意思を持ちつつも、ほんの少しの動きで十分です。意思明確であれば動きは小さくても絶対に伝わります。ただし、頭や心の中にこれから演奏する音楽が具体的に常に流れている必要があります。決して「こんな合図を出せばわかってもらえるかな?」と受け身の発想にならないように注意してください。それをやると逆に伝わらないのです。
アインザッツの上達には、たくさんの室内楽の演奏を動画やコンサートホールで鑑賞することが最も直接的です。また、オーケストラの指揮者のすぐ横にいるコンサートマスターは大規模なオーケストラのまさに奏者代表なので、じっくり見ていると、常にアインザッツをオーケストラに出しているのがわかります。コンサートマスターは第二の指揮者なのです。
より高度な内容にする
コール&レスポンスの流れに慣れてきたら、少しずつ条件を変えて難易度を上げてみましょう。
例えば、半音も含めるとか、8分音符まで使ってみるとか。ただし突然難しくしすぎると音楽的な練習ではなくなってしまうので、その辺りはバランスを考えて実践してください。
「来週はCdurでやります」など予告しておくのもいいですね。調性あらかじめ決めておくことで個々でスケール練習や調の勉強などを積極的に行うきっかけにもなります。
アーティキュレーション(スタッカートやテヌート、スラーなど)を追加するのも難易度を上げる方法のひとつです。他にもクレッシェンドやフォルテ、ピアノなどダイナミクスを含めた演奏もしてみましょう。こうした表現は、自分が思った以上に大げさに、そして明確に演奏しないと意外と伝わらず、誤解を招いてしまうこともあります。演奏は常に客席で聴いてくださる方に伝わることが重要なので、その表現力の明確さを身につけるにもこの練習はとても良いものとなります。
代表者の演奏パターンは常に同じでなくとも構いません。例えば、突然1回だけ違うメロディパターンを織り込む、というもの面白いでしょう。そうしたトラップのような存在があると集中力が身につきます。ただ、あまりにも関連性がなさすぎたり、音楽的ではない旋律になってしまうと本来の趣旨からはずれてしまうので、そのあたりは注意が必要です。
難易度が上がるにしたがって、気づくことも増えます。例えばトロンボーンの中には吹奏楽部などでは特に多いのですが、F管という迂回管が付いていないテナートロンボーンという種類があります(F管がついているのはテナーバストロンボーンと呼ばれます)。テナートロンボーンの特性として、下のC音やH音あたりはたくさんスライドを抜かなければなりません。Bdurを演奏したらおのずと6番ポジションを多用することになり、物理的に速いパッセージをこの音域で演奏するのはかなり難しい可能性があります。また、ホルンは実は音域的にBdurは少し鳴らしにくい低めの音域で、もう少し高い音域のほうが演奏しやすいかもしれません(シングル管だとなおさらです)。
このようなそれぞれの楽器の特徴にも気づくことができ、自然と様々な楽器の音に耳を傾けられるようになっていきます。
いかがでしょうか。アンサンブルは演奏者しかいない環境で曲作りをするわけですから、言葉よりも強いイメージを持った意思のある演奏で会話をして欲しいのです。その導入として、まずは徹底的にユニゾンを練習するコール&レスポンスを紹介しました。
アンサンブルの練習といえば、曲練習ばかりだったり、基礎練習と言ってもハーモニーの練習をいきなりするなど、実践的な内容がメインになっているように感じ、まるでインスタントな方法ばかりを模索しているようにも感じてしまいます。
アンサンブルの基本をまずしっかりしたものにする基礎練習をたくさん行ってください。
では、次回は曲練習の方法や考え方について解説してまいります。引き続きご覧いただければ幸いです。
それではまた次回!
荻原明(おぎわらあきら)
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