前回の記事では、毎回の楽器演奏の最初に目指すのは「最低限の要素で音を自然発生させること」であるとお話しました。
前回の記事はこちら↓
「音が発生する原理」に基づき、不要なものを持ち込まずに本当に必要なものを最低限用いるだけで目的を達成させられれば、超低燃費状態からスタートできるために、その後も負担の少ない演奏をし続けられるわけです。
これは例えて言うなら「レールの上に丁寧に車両を乗せる」ようなものであり、車両がきちんとレールに乗りさえすれば、その後はとても楽に目的地へ進むことができます。脱線しないようにするために、最も大切なのは最初なのです。
今回はそれらについて具体的に何が必要でどのようにすべきかをお話していきます。
必要最低限の「カード」
私は音が自然発生するために必要な最低限のカードは4枚である、とレッスンで言っています。ひとつずつ確認してみましょう。
[カード1:前歯が開いていること]
空気が通過することで音が出るわけですから、冷静に考えてみえれば当然すぎることです。しかし、多くの力を込めて音を出そうとするタイプの奏者は無意識に口周辺や顎に力を込めて、いわゆる「噛む」動作に近い状態を楽器の演奏に持ち込んでしまっています。
実は中学生の時の私はまさにそうでした。口を開けようとしているのに無意識に噛む動作を続けていたら、1年もしないうちに(中学2年生になったくらいから)顎の痛みが出るようになりました。顎関節症です。顎がありえない位置で筋力によって固定していたため、軟骨がすり減ってしまったのです。これは一生治らないので上手につきあっていくしかありませんが、朝起きたときに片方の顎がはずれかかっていることがたまにあります。本当に気をつけるべきことです。
したがって、この「前歯が開いている」というのは、顎や表情筋が完全にリラックスして、口を開けて寝てしまっているときのような状態であるとイメージしてください。決して力でこじ開けるようなものではありません。
[カード2:上唇]
具体的には、カード1の開いた前歯の間に上唇があることです。音を出すためには唇だけの部分が必要なのは当然ですね。
[カード3:下唇]
カード2と同じで、下唇も前歯の間に存在しなければ音は出ません。
これら3枚のカードがいわば音を発生させるために必要な準備すべきパーツです。マウスピースを唇に当てて音を出す前に行うセッティングとはこれらの行為を指していると考えてください。そしてセッティングが完了した後に行う唯一の動作が次のカードです。
[カード4:アパチュアを作る]
アパチュアとは唇の中央に作る空気の通り穴のことを指します。人間は唇の中央に穴を作ることのできる動きは1つの方法しかありません。それが下唇の口輪筋の収縮です。口を尖らせてすぼめることのできる筋肉で、これを適度に使うことで音が自然発生する状態が完成します。
カードの中に含まれていませんが、当然「体内の空気圧」は必要です。しかし、楽器から音を出そうとする人間が空気圧を意識しないと用意できないことはあり得ないため(試しに楽器を演奏する動作をしているにもかかわらず空気圧をゼロにしてみてください。相当意識しないとできないと思います)、ここでは敢えて書きませんでした。
しかし、空気圧と言っても音が自然発生するレベルの空気圧というのは「口元にあるロウソクの火に空気が当たり続けているのに消えない」程度でしかありません。静かなところで会話をしている時の空気圧と同じ程度です。
トランペットはどうしても「吹く」という単語を使うために、「吹き込む」「吹き消す」「吹き飛ばす」などの言葉を連想しがちなのか、トランペットという楽器に対する先入観なのか、異常なまでに呼気の空気圧を高めている方が大変多いのですが、それをもし基準にしてしまったら、それ以上楽に演奏するこができない高燃費状態になってしまいます。
音が自然発生するために必要なカードとしては以上です。いろいろ工夫をして、体に負担をかけずして、こんなにもトランペットは音を出すことができるのか、を実感してください。
もし音が全然出ない、という方は根気よく研究や実験を続けてほしいのですが、そのあたりに関しては次回詳しく解説してまいります。
ということで今回はここまでです。
それではまた次回!
荻原明(おぎわらあきら)
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