#050.一番最初にすべきこと(ウォームアップ)その3

3回に分けて「一番最初にすべきこと」と題し、ウォームアップについてお話しております。今回はその最終回です。

過去の記事はこちらからご覧ください。

前回は、「音が自然発生するために必要な最低限のカード」について解説しました。


人によっては信じられないくらい軽く極めてシンプルな体の使い方で音が自然発生することに気付いていただけたと思うのですが、一方で、前回までの情報だけではなかなか音が発生しない方も多くいらっしゃるはずです。


これは私自身が音楽教室の個人レッスンで、同じ内容をお伝えしても生徒さん全員がまったく同じタイミングでできるようになるわけでは当然なく、少し時間が必要な方がいます。これは当然です。しかし、そうした時間差が起きるのはなぜでしょうか。その理由を考えてみましょう。


無意識にカードを増やしている

音の自然発生を起こすために重要なのは、それぞれのカードの「分量バランス」です。そして自然発生が起こらない最も多い原因が「空気圧をどんどん上げていくことによるバランスの悪化」です。音がすぐ出ないことに焦ってしまったり、結果をすぐに求めたくなるせっかちタイプなのか、空気を楽器にどんどん流し込もうとする方(腹筋に力を込めてしまう方)が非常に多いです。ベルから聞こえてくる空気のシャーシャーした音が強くなるのですぐにわかります。


この空気圧、確かに腹筋をバンバン使っていけば、結構簡単に音が出ます。ただし爆音か、強烈な空気のシャーシャー音の中に生まれてくるピッチがめちゃくちゃ高いかすれた音になります。それ以上に、この方法で音を出せたとしても「音を発生させるための最低基準値」がこれでは、もっと大きな音や、逆にピアノのサウンドを求められても、体がすでに限界の使い方をしているために表現できす、何の意味もありません。そもそも、今はウォームアップをしていることを忘れてはなりません。


そして実はこの「空気圧」、4枚のカードの中に含まれていません。というのも、あまり「空気圧」という言葉を意識しすぎると、風船とか腹筋運動とか余計なイメージを持ってしまいかねないために、確かに絶対必要なものではありますが、敢えて含めませんでした。


それでもなお空気圧について語るのであれば「口元にあるロウソクの炎に空気が当たり続けているのに消えないレベル」であるとイメージしてください。この要素を変えことと定めて、唇の振動を自然発生するために必要な「それぞれのカードの分量バランスの調整」を行います。



分量バランスの調整

すでに決定している4枚のカード以外に増やさないことが大切です。単にバランスの問題で、カードが足りないのではない、と認識することが大切です。「唇を巻いたほうが音が出やすい」とか「横に引っ張るほうが良い」とか、信憑性のまったくない都市伝説的カードを取り込んではいけません。


前歯の開き具合は?

前歯の間にある上唇の分量は?

口輪筋の働く割合は?


そうした点を意識して、セッティングから様々なバランスを求めていきましょう。

もしそれでも音が出ない方に共通するポイントがひとつあります。



音楽的結果のイメージ

私のレッスンの進行にも問題があるのかもしれませんが、どうしても原理について解説をすると、理論的なものだけに意識を集中してしまう傾向にあります。そうならないように度々、「これは音楽です」「美しい音を奏でるためにやっています」「トランペットの美しい音を演奏しましょう」「聴く人に良い音だな、と感じてもらうためにやっていることですよ」などと言います。


美しい音楽は、理論という存在があって生まれます。奏者はその両方を兼ね揃えている必要がありますが、理論ばかりが頭の中を支配して、まるで取扱説明書を読みながら操作をして、結果は出たけど一体なぜそこまで到達したかわからない、となっているようなもので、しかもそのような機械的な思考では人の心に響く音楽は表現できません。



日本の算数は音楽の考えに向いていない

しかし、そうなってしまうのも少々仕方のないことかもしれません。というのも、私たち日本人は幼い頃から算数の授業で「1+2=?」の考え方で学んできたために、人生の様々な場面でこの思考で結論を求めようとしているのです。レッスンでも、


A(4枚のカードは決定)+B(分量バランス未確定)=C(なんかすげーいい感じなやつになるんでしょ?よくわかんないけど)


になっている場合が多く、この思考だとBもCもわからない状態で試行錯誤しています。求める結果がアバウトなままでは結果を求めるもなにもありませんよね。そうならないよう、AとCを予め決定し、Bの分量バランスについてのみ試行錯誤します。


A(決定)+B(分量バランス未確定)=具体的な結果のイメージ(決定)


Aは理論、Cは音楽(表現)です。この2つの要素をしっかり持つことで、それを目指すために必要なものが具体的に見えてくるわけです。


これは今回のウォームアップに限ったことではありません。トランペットのスキルを上げる時には常にこの発想で試行錯誤してみてください。効率良い成長が臨めることと思います。


ということで、今回はここまで。

また次回です!




荻原明(おぎわらあきら)


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ラッパの吹き方:Re

隔週土曜日の朝更新トランペットと音楽についてのブログ「ラッパの吹き方:Re」 タイトルの「Re」は「Reconstruction(再構築)」とか「Rewrite(書き直し)」の意。 なので「ラッパの吹き方 ”リ”」と読んでください。 荻原明(おぎわらあきら):トランペット奏者、東京音楽大学講師、プレスト音楽教室講師