#052.譜面台 その2(譜面台の位置とコンディションの関係)

トランペットのコンディションにムラがある、と悩んでいらっしゃる方を見ていると、演奏するまでの準備に一貫性がない…例えばセッティングの順番が適当(雑)であったり、必要なアクションが抜けているなど、音を出すことに意識が向きすぎてそのための準備に対する丁寧さが欠如していることが多いように感じます。


コンディションの不安定さはこれ以外にも「演奏時の姿勢に一貫性がない」点も要因のひとつとして挙げられます。姿勢に一貫性がないことがなぜコンディションと関係するのか。それは、ベルの角度が不安定になることで、唇とマウスピースの当たる角度や圧力(いわゆるプレス)バランスが変化するからです。


トランペットはいくつかの条件のバランスによって音が発生したり、音域コントロールができる楽器です。ベルの角度が少し変わるだけでベストバランスは簡単に崩れてしまい、音が外れてしまったり、ピッチが不安定になったり、そして最も多くの方が憂慮するバテの誘発もこれが引き金になっている可能性が含まれます。


トランペットは上唇よりも下唇に圧力が強くかかると、メインコントローラーである顎部分の可動域の自由が奪われ、さらに下唇の口輪筋がマウスピースによる圧迫により働かなくなるため、バランスが大きく崩れやすくなるのです。


したがって、それぞれの奏者にとって必要以上にベルが下がることは避けなければなりません。



ベルが下がってしまう状況とは


では、譜面台との関係でベルが不本意に下がってしまう具体的な可能性を考えてみたいと思います。

考えられるのは、このような時です。


・譜面台が低すぎる

・ベルで楽譜が見えない

・譜面台が近すぎる

・楽譜を覗き込む


ひとつずつ確認してみましょう。


[譜面台が低すぎる]


自分の目線をわざわざ下へ向けなければ楽譜が見えないのであれば、無意識にも体は前屈みになるか、首が下へ折れるか、ベルを下げてしまうことでしょう。また、ベルの上下以外にも楽器を構えているために楽譜全体が視界に入らず、ベルを左右に避けてしまうために演奏バランスが不安定になる可能性があります。



[ベルで楽譜が見えない]

譜面台の高さがある程度確保されていても、トランペットを構えた時にベルで楽譜の一部が見えなければ、楽器の角度を変えてしまうことは多々あります。上記のように左右にブレる可能性もありますね。また、ベルと譜面があまりにも近いと、音色、ピッチ、響きすべてがおかしな状態になってしまいます。では、楽譜をもっと高くしましょう、ベルに当たらないようにしましょうでは他の問題が発生します。後述します。



[譜面台が近すぎる]

譜面台との距離、実はこれが最も重要です。譜面台が近すぎると、前述したようにベルで譜面が隠れてしまいます。かと言ってその距離のまま邪魔にならない高さまで譜面台を上げると、今度は顔と譜面台が向き合ってしまい、視界に楽譜以外入らないので、もはや滑稽です。

練習場や音楽室、本番のステージサイズの関係で譜面台と楽器(奏者)の距離がどうしても近くなってしまう、という話はよく聞くのですが、奥行きがない練習場だったら上手(かみて)側に並んでみるなど、配置を工夫すれば結構解決できるものです。トランペットが客席と真正面に並ばなければならない理由などないわけで、譜面台と奏者の距離を確保するほうがよほど重要です。



[楽譜を覗き込む]

これらの要因とは別なものとして、演奏していてミスしてしまった瞬間や難しいと感じた瞬間、楽譜を覗き込もうとグッと近づいてしまうこと、ありませんか?私もやってしまうことがあるので気をつけなければならないのですが、楽譜に近づこうとすれば当然ベルは下がります。しかし目線は楽譜に向いていますから、マウスピースと唇の圧力バランスは最も望まない状態になるのです。ミスして覗き込んで、もっとミスする負の連鎖を自ら起こす必要はありませんね。



姿勢を優先する

このような理由で本領発揮できないなんて悔しいですよね。そうならないためには常にこのように考えてください。


「人間最優先」


人間が道具に譲歩せず、ベストな状態で演奏できる体の使い方を最優先させる、ということです。この発想は様々なところで役立ちます。


突然大きな話になりますが、世の中は「ルール」がたくさんありますね。そのたくさんのルールがなぜ生まれたのか、そのルールを守らなかったら何が起きるのかを辿ってみると、命に関わることだったり、不公正さを生み出してしまう大切なルール(交通ルールなど)があることがわかります。一方で、誰か特定の人(団体)が得したり、そう決めておけば広範囲の可能性を制御できるため、指示する者が指示される者へ個別に指示しなくても良くなり、とても楽だから生まれた怠惰で身勝手なものなど(昭和の校則など)、いろいろ見えてくるものがあります。


大切なルールはきちんと守るべきだし、もしそのルールを守らない人がいたら理解させるための行動や、場合によっては抑止力(罰則)が必要になるかもしれません。


一方、権力を利用した身勝手なルールについては守ったところで何も良いことはありませんが、それに従わないと指示する者が納得いかないので、関係性が悪化するかもしれません。ですから、納得いかないなら正攻法で変える努力をし、それでも変わらない(変えようとする姿勢を見せない)ならば(それに納得できないならば)、そこから離れた方が身のためかもしれません。


すいません、突然何の話をしているのだと思われたかと思いますが、私は主に部活動のトランペットとトロンボーンの譜面台を自分の右側斜め(しかもものすごく近くに置いているところも少なくない!)に置いているそれに疑問を感じてならないのです。それだけでなく、高さを統一させているところもありますよね。


なぜそのようなことをさせているのかを聞いてみても「見た目が良いから」「音を遠くへ飛ばすため」など、間違った解釈による回答しか得られません。「昔からそうだった(伝統)」「先輩にそう置くように教わった(理由はわからない)」などの声も聞こえてきて、これはまさに思考停止を誘発する意味のないルールであることがわかります。


これらの話題について詳しくは次回の記事で解説しますが、今私が言いたいのは、自分に深く関わることに関しては、自分の頭で考えて、研究して、結論を導き出そう、ということです。


それでは次回、具体的な譜面台のセッティングについて解説しますので引き続きご覧ください。



荻原明(おぎわらあきら)

「ラッパの吹き方」ブログ著者の荻原明にトランペットレッスンを習ってみませんか?

理論的な側面をきちんと理解し、それを音楽的に発展させるバランスのとれた腑に落ちるレッスンを保証します。

大人になってから初めてトランペットを手にした方や学生から数十年のブランクがあって再開し、吹奏楽団に所属された方もたくさんいらっしゃいます。

ぜひ一度体験レッスンにいらしてください。

[吹奏楽部、一般団体のレッスン、講習会も随時受け付けております]

部活指導や一般団体へのレッスン、講習会も随時受け付けております。関係者のみなさま、ぜひ理論的かつ音楽的な意味のある練習を一緒にしませんか?

吹奏楽部や一般団体のご依頼は荻原明オフィシャルサイトからお願いいたします。

ラッパの吹き方:Re

隔週土曜日の朝更新トランペットと音楽についてのブログ「ラッパの吹き方:Re」 タイトルの「Re」は「Reconstruction(再構築)」とか「Rewrite(書き直し)」の意。 なので「ラッパの吹き方 ”リ”」と読んでください。 荻原明(おぎわらあきら):トランペット奏者、東京音楽大学講師、プレスト音楽教室講師