#074.チューナーの正しい使い方

みなさんは練習中、チューナーを使っていますか?

部活などで演奏をされている方は個人所有も多いかと思います。

ところで質問ですが、チューナーって何でしょう?音が出ると針などが反応しますが、あれ、何ですか?


チューナーは周波数測定器

空気の振動が耳に届くと人はそれを音として認識し、一定の周期で発生している振動、その振動数が多いと高い音に、少ないと低い音に聞こえます。1秒間に何回空気が振動したかをHz(ヘルツ)という単位で表し、それを「周波数」と呼びます。


チューナーはその周波数を測定して、それが何の音であるかも同時に表示しているわけです。


なので、ここ大変重要なのですが、チューナーの指し示す針が±0のところにあるからと言ってそれが音楽的に最高であるとは言い切れません。音楽はピッチだけでない様々な要素が集まって生まれ、感じられるものですから、チューナーの結果はあくまでも空気振動がどのような状態かを教えてくれているだけである、と認識しましょう。


しかし音を出すたびに目の前にあるチューナーの針が左右に動けばどうしてもそれを目で追ってしまうのは、ある意味仕方がありません。無意識にでも針を真ん中に合わせようとすると、本来の目的や目標を見失ってしまいますから、チューナーは上手に使いたいものです。



チューナーの上手な使い方

チューナーを目で追ってしまわないように視界から外れたところに置いておくのがシンプルですが上手な使い方だと思います。どうせそんなことをしても結局見ちゃう、とおっしゃるでしょう。それで良いです。音を出した瞬間に視界に入らないので、結果を確認する状態になりますから、強引に針を真ん中に合わせることをしなくなります。これだけでかなり違うと思います。


実際に自分の音がどうであったかをチューナーで把握したら、素直にその事実を受け取ります。針が真ん中を指しているのだったら良い状態だったとインプットすれば良いですし、合っていないならなぜ合っていなかったかを考えたり、今どのような演奏をしていたのかフィードバックしていけば良いです。そして、次に音を出す際にはどうするか決めてもう一度チャレンジします。このような流れの中でチューナーを使うことは良いことだと思います。



ピッチの安定は様々な要素の集合体

しかしどんな音を出してもチューナーの針が真ん中(近辺)にいられる安定した演奏をするためには様々な要素が揃っていなければ実現しません。ではどのような要素が必要なのでしょうか。


[セッティングとセッティングルーティン]

常に同じセッティングを丁寧に行うことが大切です。演奏する際に「音を出す瞬間」に意識を集中させてしまいがちですが、それよりも前のセッティングや音を出すまでの一連の流れであるセッティングルーティンを安定させるほうがよほど大切です。


[呼吸、ブレスコントロールの意識]

トランペットの演奏にたくさんの呼吸や空気圧(=腹圧=腹筋)が必要だと思い込んでいる方がとても多いですが、本来はごく微量の空気圧で十分音が出る楽器です。それを理解しないままに常に「たくさん吸って、たくさん吐く」とか「楽器にたくさん息を入れる」と言った意識で楽器を鳴らそうとすれば不要に高い空気圧によってピッチは常に高い状態になります。その状態で「ピッチを下げるにはどうしたら良いか」と考えても解決はしませんね。


[ソルフェージュ1]

これから何の音を出すのかをあらかじめ頭の中や心の中に描き出すことは大切です。自分の中に音楽を生み出す行為を私は総称して「ソルフェージュ」という言葉で表現しています(本当は音楽の基礎訓練のことをソルフェージュと呼びます)。

「音楽」を描き出すわけですから、音質やその音楽が生まれている空間の雰囲気などもシミュレーションできていると素晴らしいです。このように「これから自分が演奏する音楽」を先に準備しておくことは絶対に必要です。


[ソルフェージュ2]

心や頭の中で描き出した音楽を楽器で演奏する前に自分の体で出力、要するに「声」で歌います。ピアノなどピッチの安定した鍵盤楽器などを鳴らして一緒に歌ってみるなど、これができるようになると楽器で演奏する際の非常に力強い後ろ盾になります。積極的に行ってください。


[音のツボ]

「音のツボ」という表現は非常に抽象的なものなので感覚的な存在として捉えてもらいたいのですが、簡単に言えば「楽器の機能が発揮されている状態」と言えます。自分の力だけで唇を強引に振動させて楽器から音を出しても、楽器の持っている機能を十分に発揮させることはできません。これまでに解説した3つの項目「セッティング」「呼吸」「ソルフェージュ」をベースに、唇が無理なく振動を発生させることができると、楽器の管が共鳴し始めます。楽器は正しいピッチで鳴るように丁寧に設計されているわけですから、良い意味で「楽器に頼る」ことができればおのずとピッチは安定するはずなのです。


このように、音楽優先で演奏を行うと、自然とピッチは安定してくるものです。「ピッチを安定させるためにピッチを調整する」方法にならないようにしてみましょう。


最近は譜面台にチューナーを設置できる器具なども売っていますが、あえて視界に入りづらい位置にチューナーを置いたほうが良いと思います。チューナー優先の音作りにならないように工夫してみましょう。


それではまた来週!



荻原明(おぎわらあきら)

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ラッパの吹き方:Re

隔週土曜日の朝更新トランペットと音楽についてのブログ「ラッパの吹き方:Re」 タイトルの「Re」は「Reconstruction(再構築)」とか「Rewrite(書き直し)」の意。 なので「ラッパの吹き方 ”リ”」と読んでください。 荻原明(おぎわらあきら):トランペット奏者、東京音楽大学講師、プレスト音楽教室講師