#073.トランペットを長く続けていくためには 後編 ~解答編~

前回の記事では「トランペット経験者の多くは現在楽器を演奏しておらず、それには様々な理由がある」というネガティブなお話で終わらせてしまいました。

今回はその続きですが、タイトルの通り「これから先もずっとトランペットを楽しく続けていくための考え方や方法」について『ポジティブ』に解説していきます。

前回の記事と続けて読んでいただけるとよろしいかと思います。

部活動を引退しても楽器を継続する


[ポジティブな妥協]

部活動が楽器のスタートの場合、「楽器の練習方法=部活で行ってきた練習方法」とどうしても捉えてしまいます。しかし練習は当然いくつもの方法がありますから、自身が今置かれている環境に合わせて行うことが大切です。


最も重視すべき点は「時間」です。部活動は毎日のように練習することができるので、ロングトーン、基礎合奏、個人練習、パート練習、合奏などあらゆる内容を深く広く実践できましたが、引退してもなお同じ時間を確保するのはまず不可能だと思います。


今の時代は少ないと思いますが、「一日練習しないと三日遅れる」とか言っちゃう大人はまだ絶対いると思います(特に40代以上の人)。そうした常軌を逸した環境の部活動を全うしてきた人は特に、引退した瞬間に「やり切った感」を強く持ってしまい、音楽活動をその時点で終了してしまうことが多いのだと思います。「自分の所属している吹奏楽部=演奏活動の全て」という狭い視野になってしまうのは大変もったいないと思います。


部活動は部活動の良さがありますが、引退してもなお楽器を演奏することを楽しむためには「部活動は音楽のひとつの楽しみ方でしかない」と割り切ることです。別に毎日楽器を吹く必要などなく、自分のペースで楽器を演奏してください。「一日練習しなかったので三日戻った」などあるはずがないのです。できない技術があっても長い目標を設け、時間をかけて将来できるようにしていこう、と肩の力を抜いて今を楽しんで欲しいです。

「妥協」という言葉はどうもネガティブな面で使われることが多いですが、「今を(一旦)受け入れる決断力」とポジティブに捉えてください。


[自由なことがたくさんある]

部活動で演奏する曲は顧問や外部講師、先輩、多数決など、様々な形で選ばれるため、自分が一番演奏したい曲ができない可能性があります。しかし、部活を引退した後は自由です。思う存分吹けるのです。

一般団体の吹奏楽に所属するのも良いでしょうし、部活で一緒に演奏していた仲間とアンサンブルをするのも楽しいと思います。オーケストラやジャズバンドに参加するのも新たな刺激がありますね。学生の時は自分が通っている学校の吹奏楽部に入るしか選択肢がないので(中高生でも一般バンドに入ることはできますが)、部活の取り組み方やテンションが自分のモチベーションと合わない可能性もありましたが、大人になって一般バンドに入る場合はいくつも見学して自分の理想的な団体を見つけられる可能性もあります。


引退してしまえばひとりの「自由な奏者」です。さあ何をしましょうか!



大人になってからトランペットを始めた方


[音が出せるようになるまで/ある程度演奏できるようになるまで]

大人になってからトランペットを始めた方は、きっと何か目的や目標を漠然であっても何かしら持っているはずです。憧れの曲を演奏してみたいとか、演奏できるようになったら楽団に入るんだ、とか。そうした意思を持つことはとても素晴らしく、ぜひその夢を叶えて欲しいのですが、ひとつ大事なことがあります。それは


「タイムリミットを設けないこと。」


トランペットという楽器は「感覚」が重要です。どれだけ正しい知識を得ても、一般的な方法を知って丁寧に実践を心がけていても、自分の中でできるようになるまでの期間には個人差があります。自転車に乗れる方には同じような経験があるのでおわかりいただけるのではないでしょうか。


リミットという緊張感を持つことは決して悪いわけではありませんが、「来年になったら」「半年後に」など明確な期間を決めるのは保証ができないので避けるべきです。


[独学は難しい]

このようにトランペットの演奏は感覚的な側面が強いので、最終的には自分の方法を手に入れる必要があります。そのための正しい理論と基本的な考え方や実践方法という「軸」を持っておくことで目指す方向を見失ったり、間違った方法で突き進むことを阻止できます。


確信が持てない方法を半信半疑で続けてしまうと一向に解決しないものがどんどん増えて、わけがわからなくなってしまいます。ネットで調べてもみんな言うことが違うので何が正しいのか判断できません(軸があると判別できる可能性が高くなります)。


ブログを書きまくっている私が言うことではないかもしれませんが、インターネット上に書いてあるトランペットの情報は本当に抽象的で漠然とした根拠のない解説が多すぎるので、およそ参考にならないと思って良いでしょう。


理想的な練習は「正しい理論→一般的な方法→実践→フィードバック」の繰り返しによって、自分にとっての正しい方法や、感覚的な納得を手に入れることです。


そう考えると最も効率的なのは、やはり個人レッスンを受けることだと思います。



個人レッスンを長く続けられるためには

個人レッスンをしている教室やトランペット奏者はとてもたくさんいますが、レッスンを長く続けられるかは講師側の問題が大きいです。中でも最も重要なのはやはり「講師の指導の技量」でしょう。


例えば先ほども言ったようにトランペットは感覚的側面が強いので、どんな生徒さんでも理解してもらえるためのボキャブラリーの豊富さ、多角的な解説力、そして観察力と洞察力、知識量と経験値が講師には求められます。その力がないと同じことを何度も生徒さんに言うことになり、「なんでできないの?」という禁句を口に出してしまいかねないのです。これ最悪のパターン。


講師の言葉を受け取る生徒さん側にも、先生が何を伝えようとしているのかイマジネーションを発揮して柔軟に捉える必要もあるのですが、やはり講師がきちんと正しい理論を持っていることが大切です。抽象的な言葉を羅列する先生は要注意です。


[自分に合った個人レッスンを]

そして、レッスン回数や時間も大切です。多くの音楽教室は「毎週○曜日の○時から」と曜日と時間を決めていると思われ、それが適している方がいる一方で、特に社会人の場合毎回同じ時間を確保することが難しい方はとても多いと思います。自身の生活スタイルに合ったレッスンスケジュールが組める教室を探しましょう。何とかなる、はきっと何とかなりません。


レッスン内容も非常に大切です。社会人になってレッスンに通うことが負担になる大きな理由のひとつが「課題」です。確かにレッスンの本来あるべき姿は出された課題を次回までにできるようして確認され、また課題が出て…という「積み重ね」ではありますが、それはいわば音大や音大受験の「プロを目指す」レッスン方式です。趣味でトランペットを演奏されている方の多くは練習時間が十分に確保できないわけですから、課題をこなすどころかレッスンからレッスンの間に一度も楽器に触れられいことだって十分にあり得ます。そうした可能性を講師が十分理解しておくことが大切です。


講師の多くは音大を卒業している人なので、自分が経験してきたレッスンスタイルが当然だと思っている方がいらっしゃるのかもしれませんが、生徒さんそれぞれの事情を理解して講師がフレキシブルに対応する必要があります。


ちなみに私の場合は課題は出すけれど強制は一切しません。もしまったく楽器に触れることができなかったならば、その課題を使って違う趣旨に変えます。例えば「初見で楽譜を演奏する際に大切なこと」とか「音楽理論からのアプローチで、その課題を演奏する効率的な方法を見つける」など。


[コツ、は自分で見つけるもの]

トランペットは感覚的な側面が強く、様々なことが関連し合って、実現することがほとんどなので「これをすればハイベー出ます!」みたいな「コツ」とか「ライフハック」的ななものは存在しません。いや、正直なことを言えばあるっちゃありますが、土台もない状態で一連のストーリーが完成しないまま結論だけ伝えても実現はしません。結局は自分にとって重要な考え方や体の使い方は当然自分で模索して見つけなければならないのです。「コツ」があるとするならば、それは自分自身の中にしかないものと言えるでしょう。


[「できるようになったら」は相当時間がかかる]

発表会のお誘いをすると「できるようになったら」「上手になったら」とおっしゃる方が結構いらっしゃいます。気持ちはとてもよくわかるのですが、非常にもったいない。発表会という経験を踏むことで成長するわけですから、そもそもの順序が違うんですね。それ以前に音楽を技術的に上手だ下手だと線引きしてしまうこと自体が違うと私は思います。


レッスンも同様で、「できるようになったら」次を見てもらうのでは埒が開きません。レッスンでは今の自分を隠さず出すことで、すべきことや目指す方向性を講師にガイドしてもらえるわけです。ですから、前回のレッスンで出された課題が今回もやはりできなくて、次回もやっぱりできなくても恥ずべきことはまったくありませんし、むしろ当然とも言えます。時間がかかっても一緒に解決に向かって模索すること、それ自体を楽しめる講師と生徒さんであることが理想です。


[熱しやすく冷めやすい方]

楽器を始めた時の熱量が高すぎると、急速に冷めてしまうことがあります。

例えばテンションが盛り上がりすぎて最初の一ヶ月に4回も5回もレッスンを受けても意味がありません。そもそもレッスン回数に比例して上達するわけではありません。一呼吸おいて、少し冷静になって気負わず続けていきましょう。変な話、先生としてはレッスン回数が多いほうが収入が増えるわけですが、お金よりも生徒さんにきちんとレッスンの実情を説明して調整してくれる人のほうが信頼できると思います。


[いろんな先生がいます]

個人レッスンでは当然、良い先生に出会えるかが重要です。ここで言う「良い先生」というのは、生徒さんの価値観によっても違うと思いますが、これまで話したような音楽性や知識・技量だけでなく、人間的な相性…例えば話し方とか表情とか、性別とか年齢とかかっこよさとかかわいさとか、奏者としての生業をメインに考えている方もいればレッスンに重点をおいている人もいます。こうした「講師データ」もかなり重要です。

講師の専門としているジャンルももちろん重要ですね。クラシックなのかジャズなのかなど。


もうひとつは「生徒さんが求めているものを受け入れ、レッスンに取り入れてくれるか」。教室としてのカリキュラムが決まっていたり、先生自身が「レッスンっつーのはこうやるものなんだ!」と方針を曲げない方だと、生徒さんの要望をあまり聞き入れてくれない可能性があります。ほとんどのレッスンでは無料の体験レッスンなどを実施していることが多いので、そこで見定められると良いですね。


ただ、ひとつ覚えておいて欲しいのは、あまりに生徒さん側のこだわりが強すぎたり、表面的な相性や瞬間的な印象だけで講師の先生の人柄を決めるのではなく、「この人はどんな意味で(気持ちで)言っているのだろう」と洞察する力を持っていて欲しいと思います。最初は怖い印象があったけど、よくよく話してみたらとても真面目で真剣なだけだったとか、言葉遣いはチャラいけど経験と知識はすごかった、とか。いろんな先生がいますからね。


そして、どんな講師でも絶対に共通して持っていることがあります。それは、「生徒さんには上手になってもらいたい」という願いです。「こいつをヘタクソにしてやろう」なんて思ってレッスンする人など決していません。


これからもトランペットを続けていくためには


[楽しいと感じること]

長くトランペットを続けていく上で最も大切なことは「楽しい」と感じることです。「楽しい」という言葉の中には「興味深い」「探究心が尽きない」なども含まれます。毎回の練習やレッスンでほんの少しでもいいから新しい発見があったり、「これで良かったのだ」と納得できることがあれば最高ですし、それを発見して言ってくれる講師であるべきです。もし全然納得できない日があっても、楽器を手にして音を出せたことそのものを肯定的に捉えるべきですし、今の自分の演奏に納得いかないということは理想を高く持っていると言えます。ネガティブとポジティブは表裏一体。どのように捉えるかでその先が全然違います。


[若干の負荷をかける]

自分のペースで、とは言うものの、どうしても楽なほうに行ってしまうのが人間です。ですので、常にほんの少しだけ自分に負荷をかけておくことも長続きする上で有効です。

具体的には、レッスンで毎回課題を出してもらうとか、今の自分のレベルでは少し難しい曲にチャレンジするとか、次々に演奏する曲を用意するなどです。負荷の線引きは人によって違うため難しく、負荷が負担にならにように注意する必要があります。こればかりはベストな緊張感は見つけていくしかありませんが、これらは当然講師が調整する必要があります。


[謙虚さは邪魔なだけ]

日本人の美学とも言える謙虚さは、自分を認めないことにも繋がりかねない思考のため、私は嫌いです。謙虚になるくらいなら、常に今の自分の演奏レベルを認めてあげてください。もちろん「もっともっと上達するぞ!」という野心は常に持っておきたいところです。

ですから、負担にならないのであれば「発表会に出演する」とか「(まだあまり演奏できないけど)吹奏楽団に参加する」などの積極的行動をとることで、新しい刺激や負荷がかかり、一層の上達を図ることができます。


[演奏ジャンルを変えてみる]

クラシック系を中心に練習してきたけど、ジャズにもチャレンジしてみようとか、ユーチューバーがやっているようなカラオケ音源でポップスのメロディを吹いてみるとか、トランペットでできることに何でもチャレンジするのはとても良いことです。挑戦できることを増やせば、トランペットや音楽に対して、より多くの魅力を感じることができます。


[コンサートに通う/音源を聴く]

誰かの演奏を聴いて、今すぐ楽器が吹きたくなった!とウズウズしたことありませんか?他の演奏者から刺激を受けることはとてもよくありますが、そのためにはたくさんのコンサートに足しげく通うことが大切です。生の演奏ほど受ける刺激量が強いものはありません。

また、音源からも刺激を受けることがあります。今のご時世コンサートが少なくなってしまいましたが、オンラインでコンサートを配信している方も多いですから、積極的にアクセスして欲しいと思います。


これらはトランペットに限らず、オーケストラ、吹奏楽、ポップス、ジャズと、とにかくたくさんの音楽に触れてください。今まで知らなかった素晴らしい音楽に出会える可能性が高いですし、この曲を演奏してみたい!とか、こんな音を出してみたい!とか、たくさんの刺激を受けることができます。

プロの演奏はもちろんのこと、アマチュア団体や友人同士の音源、YouTubeなどもたくさん聴いてください。音楽は上手とか下手だけではありません。


[楽譜屋さんに行く]

ヤマハなどに行くと、とても多くの楽譜が販売しています。いろんな楽譜を見ているうちに「自分でも演奏できるかも」とか「この曲吹いてみたい!」といった感情が芽生えます。私は中学生の時に毎週のように大きなヤマハのお店に行って、片っ端から楽譜を見て興奮していました(お金がないから買えないけど盛り上がるだけ盛り上がってました)。

インターネットでも楽譜は手に入るのですが、どうしても中身をじっくり見ることができないので、買うのは若干不安ですよね。やはり片っ端から楽譜を見られるお店に出向くほうが楽譜に関してはおすすめです。



ということで、前回は「なぜ楽器をやめてしまうのか」について、少々ネガティブなお話でしたが、今回の記事でたくさんの考え方や実践方法について挙げてみましたので、ご自身の最も良い方法で楽しくトランペットを続けて欲しいと思います。

私自身当然今回書いたことを講師として心がけ、レッスンしております。個人レッスンだけでなく部活指導、一般の楽団などのレッスンも行っておりますのでよろしければご検討ください。

ということで、今回はここまでです。

それではまた来週!



荻原明(おぎわらあきら)

ラッパの吹き方:Re

隔週土曜日の朝更新トランペットと音楽についてのブログ「ラッパの吹き方:Re」 タイトルの「Re」は「Reconstruction(再構築)」とか「Rewrite(書き直し)」の意。 なので「ラッパの吹き方 ”リ”」と読んでください。 荻原明(おぎわらあきら):トランペット奏者、東京音楽大学講師、プレスト音楽教室講師