#072.トランペットを長く続けていくためには 前編 ~なぜ楽器をやめてしまうのか~

トランペットを持っていたり、以前は演奏していた経験があるけれど、今はまったくトランペットに触れていない、という方はとても多いことでしょう。


このブログ「ラッパの吹き方:Re」はトランペットや音楽のことばかりを書いているため、ご覧いただいている方のほとんどは、現在トランペットや音楽と関わりのある方だと思います。ですから、この場で「諦めてしまったトランペットを再会するためには」というテーマはあまり意味がありませんので、「これから先もトランペットを続けていくためには」を書いていきたいと思います。



吹奏楽部に所属していた人は二分化する

吹奏楽部を引退すると同時に楽器に一切触れなくなる、という方はとても多いです。私の経験則や聞いた話の範疇ですが、半数、いや、もしかすると8,9割くらいの人が完全にやめているかもしれません。

やめてしまった理由は様々でしょうが、物理的な問題よりもモチベーションが上がらないから、という理由が最も多いはずです。


そもそも、吹奏楽部に所属していたからと言って、その全員が「吹奏楽大好き!楽器を演奏しているときが最高に幸せ!」というわけでは当然ありません。僕も経験がありますが、小学校の時に絶対に参加しなければならないクラブ活動というものがあって、当時特設のサッカー部に入っていたこともあり、これ以上運動系はイヤだと消極的に選んでいたら、定員割れしていた「実験クラブ」に入ることになりました。実験が嫌いなわけではありませんでしたが、本当に興味なくて辞めたくて仕方ありませんでした。

そんな経験があるので、吹奏楽部に所属しているからみんなが吹奏楽や楽器演奏を熱烈に求め続けるわけがないのは理解しています。しかし楽器は演奏したいけれど、外的要因、例えば「楽器を演奏できる環境がない」とか「仕事が忙しいから」などの理由で諦めている人がいたら、それはとてももったいないと思うのです。


また、当時所属していた吹奏楽部が非常に熱心な活動をしていて、自身のモチベーションがそこまで上げられず、それでも頑張って続けていると、引退した瞬間どっと疲れて「もうお腹いっぱいですごめんなさい」と、吹奏楽や楽器から逃げるようにやめてしまう人も多いです。


そうした方の多くは、「楽器は毎日練習しなければならないもの」「サボったら下手になる」「音をはずすと叱られる」「楽器の演奏とはチューナーの針をど真ん中に合わせ、メトロノームのクリック音にピッタリとはめ込む『作業』であり、それができないと叱られる」「吹奏楽とは金賞である」などトラウマまではいかないにしても、偏った経験によりネガティブな印象を持ってしまう人も多く、また大勢の中で演奏することしか経験していなかったことで、ひとりで演奏するイメージを持てない方も多い印象があります(ソロで人前で演奏するなんてありえません!など)。


一方でそうした吹奏楽の活動がとても自分に合っていて、吹奏楽をもっとやりたい!楽器の演奏が楽しい!と感じる方も確実に存在します。現在プロとして活動されている管打楽器コントラバスの奏者の多くが吹奏楽部出身であることもそうですし、日本には数えきれない吹奏楽団が存在していることからもそれがわかります。僕も32年トランペットを吹いていますがイヤになったり飽きたことは未だ一度もありません。希有なのかどうか、それはわかりませんが、多分一生こんなモチベーションなんだと思います。



大人になってから始めた方の場合

大人になってから自発的もしくは仲間内でトランペットを始めた方、もしくは学生時代に吹奏楽部に所属していて、数年(数十年)ぶりに再開した方も多く、僕が講師をしているトランペットクラスにもたくさんいらっしゃいます。しかしながら(これも経験則ですが)大人になってから始めた方は、短期間でトランペットをやめてしまう方が多い印象があります。

学校の部活動という半ば強制力のある状況ですし、毎日のように通う学校で行っていることも影響し、自分のちょっとしたモチベーションの傾きだけではなかなか辞めるまでには至りません。しかし大人になると仕事や勉強、家庭などすべきことが多岐にわたり、どうしても趣味のトランペットが後回しになるために、何とか1ヶ月に数回、やっとのことでトランペットに触れられる方も本当にたくさんいらっしゃいます。一度楽器に触れないでいると、それが習慣になって、いつのまにか楽器ケースが埃をかぶっている、なんてこともよくありますね。


一方で、楽器を始めた時の熱量が高すぎて、そのテンションが何らかの理由で維持できなくなり、フェードアウトしてしまう場合も多いです。



レッスンが続かない

多くは大人になってからトランペットを始めた方ですが、やはり独学は難しいということでレッスンを受ける方は多いです。


音を出す方法を学び、簡単な曲が吹けるようになるなど最初はとても楽しく意欲的ですが、やはり仕事や家庭のこともあって練習時間が確保できないまま次のレッスン日が来てしまい、出された課題にまったく手がつけられないことの後ろめたさや、そうしたストレスにより徐々に休みがちになり、結局辞めてしまう。もしくは、先ほど書いたように最初の熱量が高すぎて急激に冷めてしまうという方もいらっしゃるのではないでしょうか。

トランペットなど管楽器は、始めたばかりの頃は音を出すことに苦労する場合が多いのですが、それを知らずにスタートして、「出せる音域が狭いから演奏したい曲が吹けない」という想定外の結果に、モチベーションが維持できなくなるパターンも見受けられます。



外的要因

例えば今、最も関係しているのは新型コロナウイルスによる様々な弊害です。

最も大きいのは場所の問題。吹奏楽団に所属している方の多くは楽団の練習で音を出すことがメインになっていると思いますが、練習場所の貸し出しを渋っているところも未だ多く、合奏練習が再会できないところも少なくありません。そうなれば当然本番もありません。練習に半年くらいかけて本番に臨む団体がほとんどでしょうから、現時点で来年まで本番の見通しが立っていないという残念な事実を受け止めざるを得ないわけです。

本番も合奏練習もないためにモチベーションが下がってしまい、楽器の演奏そのものに興味を持てなくなる。そんな状態になっている方もとても多いことでしょう。


このように書き連ねてると、何ともネガティブな記事になってしまいまして申し訳ありません。トランペットを通して何十年もたくさんの方にお会いしていると、いろいろな事情で今は楽器を演奏していない、という方に出会いますので、まとめてみました。

とは言え、このまま残念な事実を書き連ねて終わっても意味がありませんので、当然次回はこれらが解消できるポジティブな解決策や考え方をどんどん書いていきます。ぜひ来週分も続けてご覧になってください!



それではまた来週!



荻原明(おぎわらあきら)

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ラッパの吹き方:Re

隔週土曜日の朝更新トランペットと音楽についてのブログ「ラッパの吹き方:Re」 タイトルの「Re」は「Reconstruction(再構築)」とか「Rewrite(書き直し)」の意。 なので「ラッパの吹き方 ”リ”」と読んでください。 荻原明(おぎわらあきら):トランペット奏者、東京音楽大学講師、プレスト音楽教室講師