#075.チューニング1〜ピッチが高いのには理由がある

前回、「チューナーの正しい使い方」のお話をしましたから、せっかくなので「チューニング」をテーマに、安定したピッチで演奏するために大切なことを角度を変えながら複数回に分けて解説していきたいと思います。


ちなみに前回の記事はこちらです。

中学生の時のチューニング

僕が中学生の頃のチューニングはすごかったんです。合奏前全員が集まったら、指揮台から代表の生徒がキーボードでB音を大音量で鳴らします。片手にはチューナー。その状態でひとりずつ音を出していくわけですが、出した音が不安定であれば当然針が動きます。その結果を代表生徒がチューナーを見て「高い」「低い」と言葉を投げ、合うまで延々と音を出させます。


40人いれば40回同じことを行います。その時間およそ1時間。今の活動時間の短縮が叫ばれている中では信じられないことですね。


なぜここまで時間がかかるのか。非効率的な方法を取っているのはもちろんそうですが、最も問題なのは「どのようにしたらピッチが合うのか」を指導者をはじめ、誰も知らなかったこと、そして「チューニングとは何なのか」を指導者が解説していなかったという点です。

これでは合わなくて当然です。


それでもやっとこさ全員のチューニングが終わったら毎回「いったいいつまでチューニングしていれば気が済むんだ」と怒られたものです。理不尽!



本来の目的を見失ったチューニング

そんな感じでしたから、楽しいはずの合奏は解決方法の見えない不毛な時間を費やすだけのチューニングのせいでいつも憂鬱だったことを覚えています。合わなくて捕まり続けているのも嫌だし、指導者に怒られるのも嫌なので、いつしかチューニングは口の周りをでたらめに動かしてバランスを崩し、一時的にチューナーの針に合わせるような「ごまかす時間」になっていました。


多分ですが他の人もほとんどそうだったはずです。金管楽器は主管(チューニングスライド)を抜き差しすることしか知らず、木管楽器は管を伸ばしたり入れたりして試行錯誤していましたが、はっきり言ってそんなことをしても解決するはずがありません。


これ、結構勘違いしている方が多いのですが、チューナーの針をど真ん中にするためにその時その時で主管を抜き差ししても根本的な解決はしません。このお話はまた次回にでも。



トランペットはなぜ多くの人が高ピッチなのか

トランペットを演奏されている方の多くは高めのピッチになっている場合が多いように感じます。皆さんはいかがでしょうか。僕は以前、制御がきかないくらいピッチが高く、主管を2cmも3cmも抜いていました。しかもそれでも中音域から離れるとピッチが不安定になりやすく、ピッチに関しては行き詰まりを感じていたこともあります。


これらの状況は楽器が問題なのではなく、当然フィジカル的な何かがそうさせていますから、まずはトランペットにおけるピッチは何で決定するのかを理解することが先です。


[すべてを空気圧で考えることが基本]

トランペットは「空気圧」によって音が出ます。そしてその空気圧が高くなると音量が大きくなったり高い音になったりします(詳しくはここでは割愛します)。したがって、演奏している時のピッチが常に高いということは、何らかの理由で空気圧が高くなっていると考えられますから、その理由を具体的に見つけることができれば、解決への道が開けるというわけです。ではその具体的な可能性を2つ挙げてみましょう


1.アパチュアサイズ

アパチュアとは唇にできた空気の通り穴であり、音の発信源であるリード部分です。トランペットはアパチュアが存在しているから唇部分が振動をします。ただ、アパチュアを用意しないで唇をギュッとつむってもトランペットは音が出てしまうため、この方法を無意識に取っている方が多くいらっしゃいます。しかし空気の通り穴がない状態では体内(外気と取り込める口から肺まで)の空気圧はちょっとしたアクションで不本意に上昇し、ピッチが上がるだけでなく不安定になりやすいのです。この本来正しくない演奏方法を私は自らの力で強引に鳴らすことから「セルフバズィング」と呼んで差別化しています。


2.腹筋

トランペットを演奏する時には「腹筋」が必要、という話はよく聞きますね。確かに腹筋は必要です。では、なぜ腹筋が必要か皆さんは正確に説明できますか?経験則ですが、この質問をレッスンでして正しく答えられた方は意外と少ないのです。腹筋がなぜ必要か、腹筋が働くことで体に何が起きているのかを理解していないと、むやみにお腹のあらゆる部分に力を込めてしまい、コントロールしにくい高い空気圧を生み出してしまうのです。また、腹筋を「腹筋トレーニング」へと連想してしまうともっと厄介で、無酸素運動であるこのトレーニングを演奏時に用いることは、息を止めて楽器を吹こうとする謎状態を作り出しているので、正しい演奏にはなり得ないわけです。


いかがでしょう、細かく考えていけばもっとたくさんの可能性がありますが、それらのは上記にあげた2つから派生したものがほとんどです。結局のところ安定したピッチで演奏するためには、正しい音の出し方を理解し、その状態で実際に出せるか、そこから始める必要がある、ということです。


ということで、まず今回はフィジカル面との関係について解説しました。

次回以降もぜひご覧いただいて、安定したピッチで演奏できるヒントを得てください。


それではまた来週!



荻原明(おぎわらあきら)

[明日締切!]トランペットオンライン講習会、次回は11月1日(日)「楽譜を学ぼう2『テンポ、ダイナミクス(強弱記号)』」です。ぜひご参加ください!

トランペットから音を出さない聴講型のオンライン講習会なので、ご自宅からでもご参加可能です。次回は「楽譜を学ぼう2『テンポ、ダイナミクス(強弱記号)』」がテーマです。

楽譜に書かれている記号、その中でもテンポについての記号、ダイナミクス(強弱)記号についての捉え方、考え方について解説します。表現力を高めたい方はもちろんのこと、トランペット以外の方、指導する立場の方にもお勧めの回です。

もし予定が合わずリアルタイムでご参加いただけない方は、見逃し配信のご視聴申し込みもご用意しております。

詳しくはプレスト音楽教室オフィシャルサイトをご覧ください!お申し込みもこちらで承ります。

ラッパの吹き方:Re

隔週土曜日の朝更新トランペットと音楽についてのブログ「ラッパの吹き方:Re」 タイトルの「Re」は「Reconstruction(再構築)」とか「Rewrite(書き直し)」の意。 なので「ラッパの吹き方 ”リ”」と読んでください。 荻原明(おぎわらあきら):トランペット奏者、東京音楽大学講師、プレスト音楽教室講師