只今チューニングとピッチのお話をしております。今回は第3回目。もし前回と前々回の記事をご覧いただいていないようでしたらぜひそちらも合わせてご覧いただければと思います。
チューニングは誰かと一緒に演奏をする際必ずと言っていいほど行いますが、これそもそも何をしているのか理解していますか?
チューニングとは、演奏の「基準ピッチを確認、認識する時間」です。
しかし、多くの吹奏楽の場で「個々の奏者が正しいピッチを鳴らせるようになっているのかチェックする場」もしくは「個々の奏者が正しいピッチで鳴らせられるよう訓練する場」に趣旨が変わっているように感じます。
もちろん、個々の奏者が正しいピッチを鳴らせて初めてチューニングが成立するのですが、そうした訓練や練習、研究は奏者が全員集まってする必要はないと思います。
言い換えるならば、正しいピッチを鳴らす方法が身についていない、安定していない奏者の場合、チューニングでピッチを揃えることはできないとも言えるわけです。
と、こんな言い方をしてしまうと、「じゃあチューニングをする必要はないのか」など誤解を招きかねないのでちゃんと解説します。
すでにお話していることですが、楽器はそもそも安定したピッチが鳴るよう精密に設計されています。ですから、その楽器が最も発揮できる演奏と能力を人間が備えてさえいれば自然と安定したピッチに寄っていくのです。ということは、ピッチが合わないのはフィジカル的な問題と、もうひとつ「ソルフェージュ的問題」があると考えられます。
フィジカル的問題はもちろん音の出る原理を正しく理解し、その原理に則って正しいセッティングを行うことです。トランペットは音を出すために無理な力をかける部分はどこにもありません。これらについてはウォームアップや奏法の研究をぜひじっくり行っていただきたいと思います。
そしてソルフェージュ的問題というのは、頭や心の中にこれから演奏する音のイメージがどれだけ詳細に具体化できているか、ということです。それを実現するために、僕がいつも思っている言葉を挙げておきます。
『音楽で使われる音はすでに存在していて、演奏者はそれを現実世界に具現化し、聴く人へ届ける役目を持った人である』
ちょっとファンタジックな言葉になってしまうのは、僕の脳内が音楽をしている時にだいだいゲーム世界になっているからなのでご了承ください。どういうことかと言いますと、チューニングで使われる例えば442HzのA音がこれから合奏する基準ピッチとあらかじめ定めているとして、その音は耳に聴こえていなくてもすでに世の中に存在しているのです。それが心や頭の中で具体化している状態でなければ何を基準にして音を出すのかわらない、ということです。未知なるものを生み出していくわけではないのです。
これは絵画と似ています。例えば「うさぎ」を描こうとしても、うさぎを詳細にイメージすることができなければ誰もが見てうさぎだと伝わる説得力のある絵は描けません。真っ白なキャンバスに絵を描く時、「よくわかんないけどこの色をこのくらい筆につけて、よくわかんないけどこのあたりにこのくらい塗りつけてみよう」なんて思って絵を描き始める人はいないわけです(例外を除く)。頭や心の中にはすでに完成図が具体的に存在しているから、それを現実のものにするために筆を手に取るのが「絵を描くこと」だと思います。音楽も同じですね。
したがって、安定したピッチで演奏するためには音を出す前に現実世界に具現化するためのイメージの基本となる存在が欲しいのです。例えばピアノやハーモニーディレクター、チューナーでAの音や和音を鳴らし、それを声に出して歌ってみる。これができると楽器で何の音を出すのかが明確になり、方向性が定まります。
このような音楽的アプローチで音を出すと、体が自然と反応していきます。
トランペットを演奏する際、フィジカル的なアプローチだけで解決しようと考えてしまうことが多いのですが、人間の体は機械とは大きく違い、プログラミングされたように毎回完璧に同じ動きを実現することは不可能です。しかし、そこに具体的なイメージや感覚的な要素が加わると結果的に常に同じものを追求していけるようになります。
・具体的イメージ(音楽性、音楽的知識)
・原理やフィジカル面の正しい知識と実践
・触覚や聴覚などの感覚器
これら全てがバランス良く揃っていると安定した結果に近づいていきます。
ですからたとえチューニングやロングトーンであっても、それを「音楽」であると捉えているかは大変重要なのです。
ということですから、全員揃ってチューニングをする時、やたらと時間をかける意味はほとんどなく、上記で解説したような前段階に時間を十分かけていきたいわけです。
1stに合わせる?
ピッチの話ではよく出てくる「1stに『合わせる』」という言葉にも注意が必要です。
そもそも日本人的解釈での「合わせる」は「自分の意思や意見を飲み込んで、合わせる対象の言いなりになる」と捉えている場合が多いです。それが良い場合ももちろんあるのかもしれませんが、音楽、特にピッチの面ではバランスを崩す要因になりかねません。
そもそも、これまで解説したようにピッチは個人個人が基準ピッチを参考に安定した演奏をすることが大切なのであって、それができていれば(理想論も含めて)ピッチが合わない、ということは起こらないのです。ですから、合わせなければ合わないのであればそれは個々の問題によるところであって、1stに合わないからダメとか、そういうことではないのです。
音楽の「合わせる」というのはピッチの話ではなくて、歌い方、フレージング、アーティキュレーションなど演奏表現の話です。
インプットトレーニング
では最後に、安定したピッチで演奏するための毎日のトレーニングについてお話しします。
楽器を出して準備ができたらいきなり音を出すのではなく、例えばB音をチューナーやピッチの安定している鍵盤などで鳴らし(和音推奨)、声に出して歌ってみます。歌っている自分の声に対するイメージは、単にピッチを意識するだけでなく、音楽的であるかが重要です。別に声楽家のような声で歌いましょうということではなく、美しさを追求したイメージを持っているか、ということです。この歌う時間を十分設けましょう。
体の中に音のイメージがインプットできたら、丁寧なセッティングから音を自然発生させます。できればノンタンギングで、体の中に溜まった空気の軽い圧力が音に変換されていくような負担のない音の出し方がベストです。
この際、チューナーをONにしておくことを推奨します。しかし、チューナーを見て音を出しているとどうしてもその結果にメンタルが左右され、±0ではないと、まるで「不正解」のレッテルを貼られてしまったかのような焦りを感じがちです。そしてそれをごまかすかのように口周辺をゴニョゴニョと安直にコントロールすることでバランスは崩壊してしまいます。こうならないよう、音が安定した後にチラっと確認するだけに留め、合っていようがずれていようがまずその結果を受け入れます。
合っているなら、この先何度も再現できるよう実践し、合っていなければ何が原因かを考え、いろいろな角度から実践しなおしてみます。
そのような音出しを最初にできると、負担のない安定した演奏でウォームアップに入ることができるので、ぜひ実践していただきたいと思います。
チューニングのお話し、もう少し続けたいと思いますのでぜひ来週もご覧いただければ幸いです。
それではまた来週!
荻原明(おぎわらあきら)
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