「リズム」「ピッチ」「音程」「テンポ」など様々な要素が楽譜通り、もしくはメトロノームやチューナーなどが示した基準に合うための練習を積極的にされている方はとても多いと思います。特に吹奏楽部ではそれらを徹底し、「練習とはそういった行為である」と(無意識であっても)定められているよう感じることが多いです。
また、こうした考え方は吹奏楽部だけでなくあらゆる音楽の場面でも感じることがあり、楽曲のどの部分を見ても寸分の狂いもなく完璧にバランスの取れた状態を目指すことが練習であり、完成させることであると考えている人が多い印象を持ちます。
きちんと比較したことがないのですが、日本人は音楽だけでなく様々な表現・芸術や物作りの世界でも特にこの傾向が強いように感じます。
僕はこうした視点で物事を見たり作り上げることを「ミクロ視点」と言っています。
ミクロ視点
ミクロ(micro、マイクロ)、という言葉は「小さい」「極小の」などの意味で、その言葉自体はどこかで耳にしたことがあると思います。
音楽ではこのミクロ視点で細部まできちんと完成されていると、まるでキズひとつない絹織物のような、もしくは美しく磨かれた宝石のような輝きが生まれます。
しかし吹奏楽部、特に吹奏楽コンクールで感じることが多いのですが、音程に寸分の狂いがなく、縦の線(リズムやテンポなど)を信じられないくらい揃えようと、まるでコンピュータでプログラミングされたかのような精巧さを目指し、そのための練習ばかりを積極的にとり行い、どんどん音楽の本質から離れて機械的な完成度の高さを目指してしまう傾向にある団体が多いように感じます。
そして、そうした環境で音楽を学んできた人たちは「音楽の練習とはそういうものなのだ」と偏った認識を持ってしまい、人によっては自分以外の演奏に対しても、ちょっとした音程の不安定さとか、1つの音のミスさえも許さないような音楽の聴き方をしてしまっている人がいるように感じます。
もちろん完璧な演奏は素晴らしいですし、目指すべき方向性のひとつではありますが、「これこそが音楽の完成形である」と前面に出してしまうのは違うと思います。音楽を含めた芸術、表現行為は、人間が持つ心に抱いたメッセージや想いを第三者の心に届けるための行為なのですから、細部にこだわることで「演奏している作品が伝えたいこと」を誤解なく伝えることはできても、それをなぜ伝えたいのか、そもそも伝えたいことが何なのかがこれには含まれていないため、完成形とは言えないのです。
そこで大切になるのが「マクロ視点」です。
マクロ視点
マクロ(macro)とは、ミクロの対義語で、「大きい」の意味です。
僕はよくレッスンで「俯瞰して作品を見てみましょう」などと言うのですが、これは「マクロ視線」です。
ミクロ視点で細かなところばかりを目で追いすぎると、今見ているものが一体何なのかわからなくなりがちです。例えば、「ド→ソ」の音程や、それぞれの音のピッチのことばかり考えてチューナーを見て安定させる練習ばかりを続けていると、確かに「ド→ソ」は正確に表現できるようになるかもしれませんが、その音程を表現したことで結局どんな作品を演奏しているのか、もっと言えばそれで聴いてくださる方にどんなメッセージを伝えたいのか、そうしたことがどんどん抜け落ちてしまいかねないのです。
ですからミクロ視点の練習が煮詰まってきたら一旦リセットして作品全体を見てください。
「結局」全体を見るとどんな曲ですか?
「要するに」この作品は何を伝えようとしているのですか?
「あなたは」なぜこの作品を演奏するのですか?
「あなたは」この作品をどう演奏したいのですか?
こうしたマクロ目線、意外に忘れがちです。
また、俯瞰して見ると、その作品のストーリー展開が見えてきます。
どんなオープニングで
↓
どのようなメロディが出てきて
↓
どんな変化や展開があり
↓
どんな終わり方をするのか
こうした「あらすじ」を理解した上で演奏していると、聴いてくださる方への説得力が強くなり、理解度が増します。
あらすじを理解できたら、その次に場面が変化するきっかけを理解しておきます。例えば一発のシンバルの音とともに違う世界が生まれるとか、低音楽器の独特なメロディが導いていくとか、もしくは極端な変化ではなく、ジワジワと「気づいたら違う世界に変化している」かもしれません。どうであれ、演奏者がストーリーを明確に理解して音楽を作り上げていかなければ、演奏を聴いてくれる人には音の羅列としてしか耳に入らない可能性があるのです。
いかがでしょうか。「曲の練習」と一言で言っても、マクロ視点で楽曲の全体像を理解・把握して、ミクロ視点でそれぞれの細部の完成度を高めていく。この両方のバランスをとりながら作品作りをして欲しいと思います。
それではまた来週!
荻原明(おぎわらあきら)
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