#094.音階練習はなぜ必要なのか

部活動などではロングトーンやバンドの教則本などを使うことが多いかもしれません。基礎練習を取り入れているバンドはとても多いと思いますが、それらの基本となっているのはやはり「音階」であると思います。


音階練習はすべての演奏する人にとって必要で重要な要素です。ピアノを経験した方の多くは「ハノン」という音階ばかりの教本をレッスンで弾いた経験があるかもしれませんし、声楽家の発声練習でもその基本は音階で構成されています。


ということは、練習の基本が音階なのではなく、「音楽の基本が音階」であると考えたほうが妥当ですね。


しかし音階練習って退屈ですよね。そんなことをしているくらいないら曲を演奏しているほうが楽しいです。


ではなぜ音階練習、音階を理解することが演奏にとって必要なのでしょうか。今日はそんなお話です。



7人によるチーム

音階は「ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ」と言うように7つの音で構成されています。さながら7人のスターティングメンバーによるチームのような存在です。

この基本メンバーがいろいろな順番やタイミングで登場するとメロディが生まれます。また、このメンバーが複数で一緒に登場すると和音が生まれて、「このメンバーだからこその響き」がより明確になります。


7人にはそれぞれ名前があって、国によって呼び方が変わり、日本語では「ハ」、英語では「C(シー)」、ドイツ語では「C(ツェー)」、イタリア語では「Do(ド)」となり、これらを「音名」と呼びます。

そうした7人のメンバーによって構成されているグループを音楽では「調」と呼びます。

グループ名はその音階の先頭のキャラクター(= 音)の名前が使われます。例えば先ほどの「ハ」というキャラクターが先頭であれば「ハ」+「長調(or 短調)」で「ハ長調(or ハ短調)」というグループ名になるわけです。

この音階の先頭のキャラクターを「主音」と呼びます。

音階の最大の特徴

音階の最大の特徴は「誰もがリーダーになれる」ところです。「ハ長調」では主音ではない役割だった音が、他の調ではリーダー(= 主音)になります。どの音がリーダーになっても音階が作れるために、たくさんのグループが存在します。したがって、それぞれの音はいくつものグループに所属しています。そのため、それぞれの音階はお隣さんだったり親戚関係だったりと、つながりの深いグループが必ずいくつか存在します(近親調とか関係調と呼びます)。



違うキャラクターの登場は違和感

そのようないくつものグループの中で「この曲(この場面)ではこのグループが音楽を作っています!」というのがあるので、音楽を聴いている側もこれから先、どんな音が登場するかをだいたい予想が付きます。


しかし、「絶対にそのグループしか登場してなはらない」なんて決まりはなく、お隣のグループから遊びにくるキャラクターも当然います。そうした違うグループの来訪者の登場は、意外性や新鮮味を感じることもあります。

また、場合によってはグループそのものが切り替わるなんてこともあり、音楽ではそれを「転調」と呼びます。


何にせよ、「この曲(場面)ではこの7人のメンバーが中心となって作品を構成している」と理解すること、それ以外のキャラクターが登場すること、グループそのものが切り替わることなどは、調を理解し、音階を理解していなければわからないことです。



音階や調を理解していないと何が起こるのか

では、そうしたことを理解しないまま曲の演奏すると何が起こるのでしょうか。

7人のメンバーがわからないのですから、これから出てくるであろう音が絞られません。すると、すべての音の中から次に何が出てくるかを予想することとなってしまいます。それはミスが増える原因にもなります。


先ほども書いたように音階には主音などの各役割をそれぞれが持っています。例えば主音を理解して演奏していれば、演奏する前からメロディの最後が主音だと視覚的にわかるだけで「ここで一旦メロディはまとまるんだな」と予測できます。そうした音楽の流れ、ストーリーを理解して演奏するのとしないのでは聴いている側への説得力も全く違うのです。


このように音楽の理論をある程度持っているだけでもミスが減り、予測ができることから音程感も具体的に見えてきます。


そうした音楽の最も基礎的な内容を理解するために、音階を演奏できること、音楽練習を基本とした基礎練習が重要である、ということなのです。



どのような練習をすると良いか


[まずはきちんと学びましょう]

ではどのような練習をすべきか。まずはともかく調を理解する必要があります。どのように構成されているのか、なぜいくつも存在するのか、調号から主音を導き出す方法など、トランペットを一旦置いて学んでください。


このブログでは過去、調について詳しく書いております。そちらを是非読んで勉強してください。

[自分で楽譜を書いてみましょう]

調の仕組みがわかったら、ぜひご自身で五線紙に手書きで全ての音階を書いてみてください。自分で楽譜を書くと音階の仕組みがより深く理解できるようになるはずです。覚えるまで何度も書いてみましょう。


[トランペットで音階練習をしてみましょう]

次に、自分で書いた楽譜を見ながら、トランペットで音階練習をしてみましょう。演奏している音階が何調かを理解した上で演奏することをおすすめします。また、本当はピアノでも音階が弾けるようになると理解度が高まるのですが、B管や楽譜のin Bという移調について理解できていないと難しいかもしれません。

そして、音階をトランペットで演奏することに慣れてきたらぜひ「アーバン金管教則本」を使ってみましょう。この教則本のおよそ中盤にはすべての長音階と様々なパターンが掲載されているので、どんどん練習してください。


[曲を演奏する前にも音階を一度吹いてみる]

また、ひとつの習慣として何かの作品をを演奏する際には、いきなり曲を演奏し始めるのではなく、その作品の音階を演奏してから曲に入ってみてください。これだけでも音程感や予測力が全然変わります。



ということで、基礎練習、その中でも最も軸となっているであろう「音階」の練習はとにかくたくさん行うべきだと考えています。いろいろな方からお話を聞くと、バンドによってはロングトーンも音階練習もすべてBdurしか使っていないという学校もあるみたいです。そうした子に音階について聞いてみると、音階というのは複数あるとは知らず、Bdurのことを音階だと思っていたりするので、まずは教える人がもっと音階や音楽の基礎的な部分がどれだけ重要かを学ぶべきだと感じます。


昨年、オンラインで講習会を複数回行い、その中で音階について詳しく解説した回があります。現在もアーカイブがありますので、有料ですがぜひご覧いただければと思います。

僕のトランペットレッスンでは今回のように演奏する上で大切な音楽の基礎についてもレクチャーしつつレッスンを進めていますし、オンラインでも対面でも音楽理論の講習会を行うことも可能です。お気軽にお問い合わせください。

詳しくは荻原明オフィシャルサイトのレッスンページをご覧ください。


それではまた来週!



荻原明(おぎわらあきら)

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昨年ご好評いただきましたオンライン講習会。今年はトランペットと楽典を分けて開催します。楽典は初心者の方でもできる限りわかるよう、1回のテーマを絞って、ゆっくり詳しく解説いたします。

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ラッパの吹き方:Re

隔週土曜日の朝更新トランペットと音楽についてのブログ「ラッパの吹き方:Re」 タイトルの「Re」は「Reconstruction(再構築)」とか「Rewrite(書き直し)」の意。 なので「ラッパの吹き方 ”リ”」と読んでください。 荻原明(おぎわらあきら):トランペット奏者、東京音楽大学講師、プレスト音楽教室講師