トランペットを演奏していて、自分の演奏に納得ができる時とそうでない時の差を感じたこと、皆さん必ずあると思います。調子が悪いな、と感じても「まあこんな日もあるさ」と流してしまうのも良いかもしれません。むしろネガティブになりすぎると、風邪をひいて体調がすぐれない時につい考えがちな「もう治らないんじゃないか」的な発想を持って、復活しにくい状態になる可能性もあります。演奏のコンディションが悪かったとしても、それは成長の証であると前向きに捉えてほしいと考えています。
そんなお話しを前回しましたので、ぜひご覧ください。
ただ、コンディションが悪いと感じた日がもしも本番だったら…これは絶対に避けたいですよね。
そこで今回は、なぜコンディションが悪くなるのか、様々な角度からその原因をまずはフィジカル面(肉体的側面)から考えてみましょう。今日のトランペットのコンディションが悪いと感じても、その理由が具体的わかれば、今後は事前に避けられるかもしれませんからね。
フィジカル面からくるコンディションの変化
睡眠時間
睡眠時間はフィジカル面を左右する最も重要なものと私は認識しています。寝不足はもちろんですが、寝過ぎも影響が出ます。私は年齢のせいか長時間寝ることができなくなってきたのと、できるだけ就寝と起床のリズムを安定させようとこころがけているので睡眠時間のバラつきがあまりありません。しかし、やはり忙しいと睡眠時間が削られてしまうので、そんな日は唇の振動が悪い、音質が悪いと必ず感じます。睡眠不足による不調は、唇の血行が悪いことが原因かもしれませんが、それだけでなく体全体の筋力バランスが崩れてしまった結果ではないかと考えています。寝ている体を起こすように、体を積極的に動かすと改善されるかもしれません。ともかく、みなさんもベストな睡眠時間を見つけてください。
疲労/薄弱
当たり前ですが、仕事や勉強、その他私生活で疲労していたり、風邪など病気になると精神面も含め、様々なところに影響が出るのは当然です。
生活する上での唇の荒れ、負担
冬場の乾燥における唇の荒れやアレルギー、食事など生活する上で唇が関係してくる行為はたくさんあります。トランペットのリード部分である唇には楽器を演奏している時間だけでなく、生活すべてにおいてケアをする心遣いが大切です。
ほんの少しでも傷や荒れが起こると音に影響が出てしまいます。特に唇中央の前歯に近い内部の粘膜は最も重要な部分ですから、常に気を付けておきたいところです。
唇周辺の皮膚の部分も、例えば男性であればヒゲ剃りの傷だったり、ヘルペスやニキビができてしまうとマウスピースを当てる時に痛みがともなって、無意識に位置や角度がずれたりプレス具合を変えてしまうなど演奏バランスが変化する可能性もあります。そうならないためにも日頃からケアやストレスを溜めない規則正しい生活が大切です。
・自分に合ったリップクリームを使用する(演奏時はプレスの妨げになる可能性があります)
・唇を必要以上に舐めたり触るクセを持たない
・塩分が強いもの、熱いもの、辛いものが極力唇に触れないようにする
・金属アレルギーの場合はリムを金メッキや木製、樹脂にする方法があります
私の経験則ですが、トランペットを毎日吹いていると唇が荒れにくい実感があります。逆に1日吹かなかったり(あまりそういう日がないのですが)、音を出す時間が短い日があると、みるみる唇が乾燥し、荒れてくるので、もしかすると唇に対する最大のケアは毎日楽器を吹くことなのかもしれません。
ともかく、規則正しい生活を心がけることでしょう。
そして、以下はトランペットの演奏時に関係してくる不調になる原因です。
ウォームアップをしない
ウォームアップをせずに強引に音を出し、そのまま練習や演奏をしていると、体の使い方やバランスが崩れてしまう可能性があります。スポーツは体を大きく、力強く使いますが、トランペットは繊細で丁寧な体の使い方を要求され、それを感覚的に呼び起こす作業がウォームアップなのです。
奏法を考えすぎる、いじりすぎる
より良いものを求めるために体の使い方やバランスをいろいろと試すのは悪くありませんが、根拠なくあれこれ変化させたり、ひとつひとつの行為にフィードバックがないと、何が正しくて、何がよくないのか、そして今までどう吹いていたか、そのあたりが曖昧になってしまうのです。
かたよった練習内容
例えば、ハイノートを出せるようにしたいからと、何時間もハイノートばかり吹いていたらコンディションは崩れます。タンギングを集中的に練習しようと、舌のことばかりに意識を向けていては、体全体のバランスから目を背けてしまうことになり、これも良くありません。トランペットを練習する上で目標や目的を決めることはとても大切ですが、常に良い音、良い響き、良い音程感など、音楽的側面から全般的な安定感を追求していなければ、コンディションは崩れてしまうのです。これは奏法を考える際も重要で、体の使い方だけで良い演奏や整ったセッティングは絶対に生まれません。
吹きすぎとバテ、潰れ
吹奏楽コンクール直前の集中的な長時間練習で、だんだん高音域や低音域が出なくなり、音質が悪化して、最終的には自分がどうやって音を出せていたのかがわからなくなってくる、いわゆる「潰れ」てしまう人をこれまでに何人か見てきました。これもやはり毎回正しいウォームアップをしなかったことが最大の原因です。
そしてもうひとつ、長時間の練習ではバテに対するケアが大切になります。バテてしまうのは遅かれ早かれ全員に起きる可能性がありますが、問題なのはバテているのに吹かなければならない状況が長く続くことです。
大切なのはこまめな休憩を取ること。吹奏楽の合奏では、トランペットに比べてバテにくい楽器が多く存在します。木管や打楽器を基準にして練習時間を確保すると、曲にもよりますが金管楽器にとってこの上なく過酷な状況になりかねません。また、吹き続けなければならないロングトーン練習やハーモニー練習は地味ですがこれも非常に大変な練習です。
そうしたことを指導者が理解した上で、基礎合奏では金管を抜いた状態でやる回を設けたり、合奏中にトランペットの1st奏者がこれ以上音が出せなさそうと判断したら、予定を前倒しして休憩を取るとか、トランペットなしで曲作りができる箇所に一時的に移動するなどの配所をお願いしたいところです。
吹かなすぎ
何日も吹かなければ感覚は鈍くなって当然です。その場合は、安定したコンディションを呼び起こすために、まずはやはり時間をかけてゆっくりとウォームアップを行い、いきなりハードな内容の練習をすることがないよう心がけましょう。
トランペットは結局のところ体を使う感覚をどれだけ正しく呼び起こせるかがコンディションの安定に繋がりますから、一週間に一回しか楽器が吹けない方も、毎日マウスピースだけでも口に当て、軽く音を出してみると感覚をキープしやすくなります。
いかがでしょうか。このようにコンディションの変化には必ず理由があること、おわかりいただけたかと思います。
ジンクス、という若干オカルト的なものがありますが、私の個人的な考えでは、ジンクスも必ず何か理由があるはずだと考えます。
コンディションが良い場合もそうでない場合も、すべては自身の体の状態や、今に至るまでに何をしてきたか、そうした振り返りから原因や理由を突き止められるように常に客観的な視点を持っておくことが大切です。
ということで、今回はここまで。次回はメンタル面からのコンディションのお話しをしますので引き続きご覧ください。
今回の記事で年内の掲載は終了です。今年も一年ありがとうございました!来年もどうぞよろしくお願いいたします。来年の初回はいつも通り1月4日の火曜日に更新いたします。
良いお年をお迎えください。
荻原明(おぎわらあきら)
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