#142.お客さんを無視するなんてとんでもない

前回、前前回と、音楽は「作曲者」「奏者」「聴衆」が揃うことで成立する、というお話をしました。ぜひそちらの記事もご覧ください。

さて、このブログをご覧くださっている方の多くは、きっと演奏活動をされているのだと思われます。

中でも部活動や楽団、グループなどどこかに所属されていると、定期的に本番があるはずです。コロナ禍になってコンサートができなくなってしまった方もいらっしゃると思いますが。


今回は「本番」という特殊な場面における「作曲者」「演奏者」「聴衆」の関係についてのお話です。


ナスやピーマンが並んでいると思え

みなさんは本番、人前で演奏する場面は緊張しますか?「全然緊張なんてしたことない!」と言う方は極めて稀だと思います。きっとほとんどの方は多かれ少なかれ緊張しながら本番を迎えていることでしょう。


緊張は、よく悪者にされがちで「緊張しないようになるには」とか「緊張に負けない」など、緊張しないことが良いとされる傾向があります。


今はもう言う人も少なくなったのかもしれませんが、昔はよく「客席にいる人をナスやピーマンが並んでいると思え」とか、結構ぶっ飛んだアドバイスもありました。

お客さんがいないと思えば、いつもの練習のように演奏できるという発想から生まれた言葉ですが、しかしこのような発想は「聴衆」を削除してしまい、音楽に必要な要素がなくなってしまうわけです。お客さんの立場になってみればすぐにわかることですが、そんな演奏聴きたいとは思いませんよね。だって無視されているわけですから。


音楽は「聴く人に作品の存在を正しく伝え、奏者としてその作品をどのように受け止めたのかを伝える」行為ですから、例えば楽しい曲、作品がそのような力を持っていることで奏者も楽しい気分で演奏することで、お客さんもウキウキワクワクニコニコしてもらうとか、切なく悲しい曲でお客さんが涙したり、愛情に満ちた音楽を届けてお客さんそれぞれの愛しい人を再確認したり。音楽はそうした力を持っているし、そうした空間を作り上げるのが演奏者の役割なわけです。


お客さんを無視するなんてとんでもない。

そもそも、お客さんは敵ではありません。みなさんがコンサートに行って「あの奏者を陥れてやろう」とか敵意に満ちて客席に座っている人など、まず存在しません。そういう人がもし本当にいるとしたら、そもそも会場に来ないし、来ても途中退席する程度でしょう。昭和のマンガでは、ひどい演奏に対して空き缶や、なぜかかじった後のリンゴの芯が怒号と共に飛び交うシーンとか、壇上に上がってきて殺害されたりしましたが、現実ではあり得ません。


奏者も緊張しますが、お客さんもある意味ワクワクした緊張感を持って席に座っていますから、その空間が暖かいものになるよう奏者のほうから歩み寄っていくくらいの気持ちがあったほうが良いと思います。


もしあなたが本番に極度の緊張をしてしまうタイプだったら、勇気を出して客席へ気持ちを届けよう、そんな演奏をしてみてください。入退場や挨拶をする時にもお客さんと仲良くなるぞ、という気持ちで笑顔で接してください。そうすることで良い緊張感を持つことができると思います。


「緊張」についてはこのブログで後日書いてみたいと思います。



荻原明(おぎわらあきら)

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隔週土曜日の朝更新トランペットと音楽についてのブログ「ラッパの吹き方:Re」 タイトルの「Re」は「Reconstruction(再構築)」とか「Rewrite(書き直し)」の意。 なので「ラッパの吹き方 ”リ”」と読んでください。 荻原明(おぎわらあきら):トランペット奏者、東京音楽大学講師、プレスト音楽教室講師