#058.テンポはどこにあるのか

レッスンあるある。


「ではやってみましょう」と課題にしていた作品を演奏するようお願いすると、楽器を構える前に不安そうな表情で、


「あの…テンポはどのくらいですか?」


という質問をされる方、結構いらっしゃいます。

この質問を受けたとき、私は必ず質問を返しをします。


「あなたはどんなテンポで演奏したいのですか?」と。


ちょっとイジワルですかね。ごめんなさいね。どのくらいのテンポで演奏すればよいのか質問したくなる気持ち、とてもよくわかるんです。わかってるんです。


このテンポに関しての質問をされる方の多くは吹奏楽やオーケストラの団体や部活に所属している方です。

合奏は必ず指揮者がいます。指揮者が振る棒の動きに合わせて奏者は演奏をするので、テンポは外部から与えられるもの(自分で設定する必要がないもの)と錯覚しがちです。


また、思い返せば音楽教育と言えば先生がピアノや指揮をしながら「さん、はい!」とか指示を出し、手拍子をバンバン叩いてそれに合わさせることばかりです。で、そのバンバン叩く音とずれると怒られたり。挙げ句の果てに「(私の指揮/手拍子に)合わせなさい!」とか言っちゃうものだから、音楽とはそういうものだ、と植え付けられてしまう。


しかし私はレッスン中、2重奏などアンサンブルをする時以外は「さん、しー」みたいなことは極力言いません。ましてや手拍子などめったなことではしません。2重奏でもできるだけ生徒さんにアインザッツ(出だしの合図)をしてもらうようにお願いして、自分が先にその作品のテンポを示すことはしません。自分が先に出してしまうと「この曲はそういうテンポなのだ」と認識させてしまい、既成事実が生まれてしまうからです。


テンポはどこにあるのか

「テンポどれくらいか質問」をされた生徒さんにはもれなく作曲家になってもらいます。


と言っても曲を書いてもらうわけではりません。作曲家の「つもり」になってもらうのです。


「あなたは作曲家です。素敵な旋律がひらめいたので楽譜に書き留めましょう。そころでそのメロディ、テンポのこと、まったく考えないで書いているのですか?」


そんなはずありませんね。当然テンポの要素も含まれてのメロディです。そうじゃないと歌えませんし、リズムも作れません。



「では、トランペット奏者に戻りましょう。あなたがこれから演奏しようとしているその楽譜、作曲者はどんなテンポを想定して書いたのだと思いますか?」


当然作曲者に電話やメールをして質問しなさいと言ってるわけではありません。


そうではなく、楽譜の情報を元にイマジネーションと自分のセンスを発揮して「その作品が最も活きるテンポ」を生み出して欲しいのです。


楽譜には何らかのヒントとなる記号や文字が書かれていることがほとんどです。メトロノーム記号であれば作曲家の具体的なイメージが数値化されていて便利ですし(ただし、それ以上の情報にはならない)、AllegroやAndanteなど文字で書いてあれば作曲家のイメージに入り込むきっかけになります。


教則本の場合はそれに加えて「今、自分がその曲を演奏する目的」も関係しています。丁寧に作り上げるために敢えてテンポを落として演奏するのか、それこそ作曲者の意図を汲んでチャレンジするのかなど。


そうした目的や意思を持った上での演奏に対して「そんなテンポじゃない」と100%言い切れないのが音楽です。もちろんテキトーに演奏した結果のテンポはダメですが。


指揮者と奏者の関係

話を戻しますが、確かに吹奏楽やオーケストラでの指揮者はテンポを指示する役割も持っています。だからといって、奏者がテンポに対して指揮者に丸投げし、自身ではテンポ感ゼロの状態で合奏をして良いわけがありません


まずは各奏者それぞれが「その作品(場面)に対して最もふさわしいと感じているテンポ」を持って合奏に臨んでください。そうした意思が集まって、指揮者というプロデューサーが完成形へと導いていくのが本当の意味でのアンサンブルであり、指揮者にテンポ決定を押し付けては音楽の魅力は半減してしまいます。


指揮に合わせることは大切ですが、それは各奏者がきちんと作品に対しての意思を持っているから成立することなのです。


ですから、部活指導をされている先生も、指揮棒(のようなもの)を譜面台にカンカン打ちつけて「テンポ!」とか言っていると、いつまでたっても奏者は自発的にテンポを主張してこないために一向にテンポが定まらず、だから指導者はもっと「テンポ!」とか「指揮に合わせろ!」とか言い出す負のループが生まれてしまうのでご注意ください。



…というか、そもそも「テンポはどのくらいですか?」と聞いてくるというのは「譜読みまったくしていません」と言っているようなものですから、勘違いされてしまいます。一方でもし練習してきたのだったら、その時のテンポとは一体何だったのか、幻だったのか、ということになってしまいます。どちらにしても不思議な話ですね。


テンポに関しては過去にも書いております。こちらの記事もぜひご覧ください。


それではまた次回!



荻原明(おぎわらあきら)


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