#059.飛沫可視化実験の良い副産物

さて、前回をもって”note”というサービスで展開しておりました「トランペット技術(テクニック)本」がついに完結しまして、しばらくはこちらの「ラッパの吹き方:Re」を毎週更新してまいりますのでどうぞよろしくお願い致します。


飛沫可視化実験

”note”でもこのブログでもない好き放題書いている「別館」というブログもありまして、誰がどのくらい見てくださっているのかさっぱり確認しておらず、懲りずに毎朝休むことなく掲載して3年目に突入しておりますがそこで「飛沫可視化実験」というタイトルの記事を先日掲載しました。

楽器を演奏しているとどれくらい口の中から唾液が飛ぶのか、という実験です。


アウロスリコーダーで有名なトヤマ楽器がリコーダーだけでなく鍵盤ハーモニカなども含めて飛沫可視化実験の動画を掲載され、そしてヤマハは管楽器や、挨拶など部活で大きな声で呼びかけるシーンでどのくらい飛沫が確認できるのか、動画を掲載しています。

トランペットに限ってお話をすると、演奏では飛沫は見られませんでした。ただ、マウスピースだけで音を出している時と、いわゆる「ツバ抜き」をしている際には飛沫が確認されました。想像の範疇ですよね。


ですから演奏するという側面だけで考えれば、合奏による感染リスクはほぼないと考えて良いと思うのですが、合奏するとなれば当然人が集まって密になりますし、合奏時間以外を無言で過ごすわけにもいかず、思わずクシャミも出るでしょうし、そもそも指揮者は声を出すことが多いので、それらについての意識やケアは必要になるでしょう。


しかし、この実験によって一般の人が先入観で持っている「管楽器は危険」という誤解は少しずつ解けるのかもしれません。


実験による良い副産物

私がそれ以上に良かったと感じるのは、この実験によって「楽器はどのように演奏するのか」が見えた点です。


[溜めて吹く]

「息を使って演奏するのに、息が楽器から出てこないのはなぜだろう?」という疑問が「音の出る原理」を知る最初のきっかけになれば、と期待が生まれました。

というのも、未だによく使われる「もっと息使って」「楽器に息を入れて」「音を遠くへ飛ばして」に始まる指導者語録の数々。抽象的な表現なのか、それとも具体的な身体的動作なのかわかりづらく、誤解を生んで逆効果になるパターン。指導者の使う言葉は真偽関係なくとても強い力を持っているために、単語の使い方や言葉の並べ方、声のトーンなど、様々な面でよくも悪くも影響が出ます。ですから、抽象的なのか具体的なのかを添えて伝えないと、本当に楽器の中に息を吹き込んで音を出そうとする人が続出してしまいます。これでは何のための指導者だかわかりませんね。


はい。上記の文章に疑問を持った方、絶対いらっしゃいますよね。「抽象的?いやいや、楽器に息を入れるのは当然でしょう?」と。


確かに空気の流れは発生します。しかし、空気を流し込むから音が出ているのではないのです。


ここで先ほどの飛沫可視化実験が役に立ちます。


トランペットの音の出る原理を簡単に説明すると、体内の空気圧と、マウスピースのカップ内の空気圧、そしてそれらを繋ぐ唇にできた穴「アパチュア」、これらの分量やサイズバランスが良い状態になると唇は自然に振動を発生します。したがって、音を出すためには「吹く」よりも「溜める」という言葉のほうが適切であると言えます。


[パイプオルガン]

もしトランペットを管の中に空気を吹き込むことで音を出すのであれば、コンサートホールにある巨大なパイプオルガンの演奏を聴いていたら客席に空気の流れが渦巻くと考えられますが、そんなことありませんね。パイプオルガンのそれぞれの管にも当然音を出すための仕組みが備わっているのですが、そこで重要になるのが空気を溜める空間=空気発を発生させている空間が存在しているという点です。


音が出る部分が意図的に狭くなっているために空気圧が高まる仕組みで、これはまるでアパチュアやトランペットのマウスピースカップのようですね。


パイプオルガンもトランペットもあの管は「共鳴管」であり、水を流すためのゴムホースのように空気を流し込むわけではないのです。


パイプオルガンの構造については、ヤマハのホームページに非常に詳しく掲載されているので興味があったらぜひ見てみてください。

管楽器の管は共鳴管であり、空気を流し込む管ではないことが理解できると、例えば体の小さな小学生がトランペットを朗々を響かして演奏できていることも説明がつきます。決してたくさんの肺活量や強い腹筋がトランペットに必要な要素ではないのです。


[マウスピースでの音出し]

次に、今回の飛沫可視化実験で飛沫が確認された「マウスピースでの音出し」についても見えてくるものがあります。


私は中学1年生のときに吹奏楽でトランペットを始めたのですが、入部してまもなく先輩から「唇だけでブーブー(バズィング)できたらマウスピースを貸してあげる」と言われ、一生懸命唇に力を込めて、お腹の筋肉を使って顔を真っ赤にし、頑張ったのですがなかなかできず、その後やっとのことで手に入れたマウスピースでもやはり全然音が出なくて、その時先輩から受けたアドバイスが「もっと頑張って吹いて!」「もっと息入れて!」「もっと腹筋使って!」「もっと口を横に引っ張って!」などだった記憶があります。とにかく音を出すには力と気合と根性である、という指導だったわけです。


実際のところ、私がレッスンでもよくお伝えしていることですが、トランペットは要素を増やせば増やすほど音を出せなくしていると考えるべきで、中1当時の私のやっていたこと、そしてその私にアドバイスしていた先輩の言葉は、すべて「もっと!」の足し算だったわけで、こんなので音が出るわけがないのです。


そもそもマウスピースだけの状態と楽器に装着した状態では空気圧のバランスはまったく違いますから、多くの人が行っているマウスピースで音階やメロディを演奏するという行為は意味があることなのかも、それがスキルアップにつながる行為なのかも疑問です。


私の場合はウォームアップの最初にほんの少しの時間(30秒くらい)マウスピースだけを使って行いますが、何をしているかと言うとそれは位置の確認とルーティンの確認だけです。決してタンギングをしたり、音階や、ましてやメロディなどは全く吹きません。


ヤマハの飛沫可視化実験動画にあったマウスピースだけの音出しは、かなり積極的にマウスピースだけでビービー鳴らしていますが、そもそもこれを行う意味がありません。したがって、行わなければ飛沫のリスクも回避できますし、一石二鳥というわけです。


[ツバ抜き]

また、もうひとつのいわゆる「ツバ抜き」、これも動画を見ているとやたらと吹き込んで拡散しているように見えます。そんなに飛び散らせないと中の水分が出ませんかね。


ツバ抜きはウォーターキイを開けて軽くフッと吹けばそれで十分ですし、それでも出ない場合はウォーターキイの部分に水分が集中していないことが原因ですから、どこに溜まっているのかを見つけて出す際には角度を工夫してみるとか、楽器を(慎重に)回してみるとか、ピストンを押して全ての管をつなげた状態にしてみると解消されることがほとんどです。


関連性がどこまで高いかは個人差があると思いますが、私はツバ抜きの際に勢いよくフーーーーッ!とする人ほど「トランペットは管に吹き込んで音を出すもの」という発想がリンクしているように感じます。


ということなので、飛沫に関してはこれで発生させずに済むと思われます。


ただ、神経質なことを言えばどこに出すか、ですね。私自身はハンドタオルをウォーターキイに被せて水分を出す行為は、時間がかかって演奏に集中できなかったり、わざわざ行うアクションのために「溜まったら出す」という状態になりがちで推奨していません。そうではなく溜まる前に出すのです。そうしないと演奏に支障が出ますからね。


そこで、私はペーパータオルを床に敷いてそこに出すようにしていますが(東京音大ではペット用の給水シートがもらえますし、受け皿を用意しているところもあります)、そうしたものをこまめに交換したり、洗浄し、自分の周辺の床やスリッパなどを除菌する程度で大丈夫だと個人的には考えています。


そもそも「ツバ」とは言っていますがそのほとんどが管内に発生した結露(空気中の暖められた水分)と、バルブから流れてきたバルブオイルですので、口の中から出てきた唾液などほとんど含まれていません。ノロウイルスのような強力な感染力を持ったものと混同しないほうがいいと思います。


ということでトランペットを演奏する際の飛沫をテーマに、どのように心がけるべきかを提案してみました。演奏している時間以外をどのように過ごすか、これを全員で決めておくことが大切ですね。それができれば大丈夫だと思いますので、部活動や楽団など、早く再開してほしいと思う次第です。


最初にも申しましたが、”note”というサービスで展開していた「技術本」の連載が終わりましたので、今後は毎週この「ラッパの吹き方:Re」を更新してまいります。


それでは、また来週!




荻原明(おぎわらあきら)

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ラッパの吹き方:Re

ブログ「ラッパの吹き方」が10年目を迎えて新しくなりました! タイトルの「Re」は「Reconstruction(再構築)」とか「Rewrite(書き直し)」の意。 なので「ラッパの吹き方 ”リ”」と読んでください。