#065.コロナ騒動から生まれた大きな可能性

みなさんはコロナ騒動で生活環境が変わりましたか?


学生の方は学校にほとんど行くこともできないなど、特に大きな変化があったと思います。一方で、これまでとまったく変化なく通勤されている社会人の方もいらっしゃるようですね。


音楽業界は非常に大きな変化が起きました。人前で演奏できないし、演奏者同士が集まることもできない。最近になってやっとそれが少しだけ解消してきたように感じますが、僕はブログやSNSでも度々話題にしておりますが、そもそも本当にあれだけの距離を取らないといけないのか甚だ疑問です。最近、一流の音楽家の方々と飛沫研究を専門とされている方々が協力して実験をされたのをNHKの番組で放送されていましたし、シエナさんがホールでそれらを実験されているのも拝見しました。多分ですが科学的な裏付けがとれれば、もっと接近して演奏しても支障がないことがわかり、今までにより近い状態に戻ると信じています。


クラシックのコンサートの場合はお客さんも別に声を出すわけではありませんから、接近しても大丈夫なように思うのです。本当に必要なぶんだけ対策を取り、万が一感染者が発生してもその個人や主催、会場に対する無意味なバッシング、風評被害が起こらないモラルのある対応を国が中心となって世の中に進めていくこと、そうした世の中になってくれれば…。


おっとそういった話はここでする必要はありませんね。


今回の騒動で僕自身も変化がありました。それは、オンラインレッスンという選択肢が増えたことです。

ネガティブなものばかりのコロナ関連の話題ですが、これは違います。



ZOOMのレッスン

音楽のレッスンと言えば対面で行うのが当然でしたが、この状況ですから、教室へ来る道のりが不安であるとか、対面でのレッスンそのものに不安を感じる方がいらっしゃるのは当然のことだと思います。そこで活躍するのが遠隔レッスンというスタイル。これならば不特定多数の人と接触することもありませんし、安心です。


オンラインレッスン、僕はZOOMを利用しています。東京音大の授業でもZOOMを使うことが多く、そうしたこともZOOMを選んだきっかけのひとつですが、他のアプリの話を聞く限りでは現時点では最もユーザーが多く、使いやすいと思われます。


ただ、ZOOMはもともと会議用のツールですから、音楽に特化しているわけではありません。



ZOOMでできないこと

ZOOMは2人が同時に声を出すことができません。先に出た声を優先し、他の音を消してしまいます。したがって、リアルな会話では自然に起こる「あいづち」を打ってしまうと、それが優先されて肝心の会話が途切れてしまうのです。


音楽のレッスンは喋ることが多いですし(特に僕は理論的なお話をするレッスンだと喋る時間が長いです)、当然音でもこの現象は起きます。

ということは、同時に演奏することはできません。


また、僕はやりませんが例えば先生が手拍子をして生徒さんがそれに合わせて演奏することはできません。

生徒さんが演奏している最中に「そう!」「いいよー!」とかも言えません。


ひたすら無言。

演奏が終わったら喋る。

あいづちは大きいうなずき。


これらはオンラインの独特な作法になりつつあります。


みなさんにお聞きしたいのですが、これらは「デメリット」でしょうか。



じっくりできるメリット

世の中で既に一般的なものを「基準」と捉えてしまうと、後から生まれたものを「今までのはできていたのにね」「今までのと違うからやりにくい、使いづらい」と、「既に一般的なものと比較して基準に満たない部分がどこか」というネガティブな視点で村八分化してしまう方が必ず一定数いらっしゃいます。こうした保守的な発想を持つ人は、最初から新しいものを敬遠する気持ちが心のどこかに存在しているから、受け入れることに相当な時間がかかります。


もちろんそうした思想は個人のものですから僕がとやかく言うことではありません。しかし、僕はこの発想にならないよう心がけています。もったいないから。


新しいものが生まれたら「選択肢が増えた」とワクワクしたいし、新しいものにしかできないこと、今までの一般的なものと融合させたらどんな可能性があるかを模索して、有効的に使うほうがよほど楽しくて発展的です。


したがって、ZOOMでできないことをデメリットと捉えません。「だからこそ、じっくり聞くことができる」「ゆっくりひとつずつ考えることができる」特徴と捉えます。


僕は、ついレッスンで時間の許す限り目一杯やりたいと思ってしまいがちで(それがお金を払って時間を割いてきてくださった方への当然のお返しだと思っているから)、しかし目一杯やりすぎて情報が多くなり、かえって生徒さんをキャパオーバーさせてしまうことがよくあります。最近はそうならないようにだいぶ抑えることができるようになったと思いますが(「えっ?!あれで抑えているの?!」という生徒さんの声が聞こえてくる気がしますが)、オンラインレッスンでは1回のレッスンでひとつテーマをストーリーに沿ってじっくり確認できるため、より深い理解や強固な基盤作りができることを実感しています。



講師側の心がけ

オンラインレッスンのデメリットは何か、という問いに対して最も多い意見が「音質」の問題点です。


確かに、音楽は空間の共鳴によるリアル体験、喜び、楽しみがあります。対面レッスンでも楽器や空間の共鳴の話になることは多いですし、絶対に必要なレッスン項目の一つです。


では、オンラインではそれができないからと否定的に見てしまうのは、何度も言うようにもったいない。


オンラインレッスンを重ねていくにつれて、画面越しの生徒さんの演奏が響きのあるサウンドかそうでないか(良い方向性であるかどうか)は、およそ想像がつくようになりました。講師側はそうした「きっとそうである」という強い洞察力、想像力をフル稼働しておく必要があります。


また、講師側は少しでも良いサウンドを生徒さんへ届けるために、音響機材にこだわることも大切です。


僕の場合は幸い、プレスト音楽教室がオンラインレッスンに対し理解を示してくださったため、自粛期間中に機材を揃えることができました。これらを使うことで少なくとも生徒さんは対面レッスンに近い音質のイメージを持てるようになったと思います。


そして僕が講師として最もオンラインレッスンで意識した点が「内容」です。



音出しができない環境でレッスンをする方法

トランペットのオンラインレッスン最大の問題点は「生徒さん側が音を出せる環境ではない」ことです。


音楽教室内でのレッスンでしたらスタジオで行なっているためにどれだけ大きな音を出しても問題ありませんが、このご時世ですから、公共の練習室は使用禁止になっていて、音楽スタジオやカラオケは利用できたとしても感染リスクが高く、それでは遠隔レッスンにした意味がありません(そこまでできるなら教室に来たほうが良いですから)。したがって、ご自宅からレッスンを受ける方がほとんどです。


当然のことですが自宅で音が出せる方、というのも大変少なく「場所がないからレッスンは無理」と諦めてしまことが予測できました。


そこで僕は先手を打って「自宅でできるレッスンがあります」と生徒さんにアナウンスしたわけです。


音出しができないところで音出しをする。一体どういうことかと言いますと、僕が毎日最初に行なっているppウォームアップ。これを提案したわけです。


音が出せないからと楽器ケースを開けることすらしなくなった、というお話をたくさんの生徒さんから聞きました。しかしそれはとてももったいない。家の中でもできる練習はあるのです。確かに思いっきりffで演奏できないストレスはあるかもしれません。しかし、この超pp練習でコンディションを行うことで常に一定の調子に整えられますから、今後楽団や部活動が再開した時にも最初から良い状態で演奏できるのです。


超pp練習は、「普通の会話やテレビの音量を超えない音量で演奏する」という課題を提示して、音がなぜ出るのか原理を再確認し、それを実現するための人間側が用意するもの、セッティングの方法を再確認することから始まります。そして音が自然発生するバランスを調整し、安定して音が出るようになったら、ppのまま様々なパターンを提案していく。こうしたストーリーがあります。


これだけの内容を1回1時間でこなすことは難しいですし、クオリティを高めるためにも複数回確認しながら丁寧に行なっていくのが望ましいです。


実際にこれらを実践してくださった生徒さんから、「コンディションが安定した」「今までいかに無理な力をかけて吹いていたかを実感した」「実際に広いところで音を出したら、音質がとても良かった」と嬉しい言葉をたくさんいただきました。


こうした内容のレッスンは以前から対面でもやっていましたが、音が出せるスタジオですとこればかりで終わってしまうのはどうしてももったいないと感じ、教則本や曲のレッスンに流れていってしまうために、オンラインで実践している時よりも内容が薄めだったかもしれません。だからこそのじっくり時間をかけてできるオンラインレッスンにとても合っているな、と実感しています。



オンラインと音楽の今後

オンラインレッスンはコロナ騒動がきっかけで一般的になったものではありますが、今後オンラインレッスンはより幅広い使われ方をすると確信しています。


その理由のひとつは物理的な距離が解消される点。これまでのレッスンはどうしても「通える距離」が絶対に外せない選択肢に入っていました。しかしオンラインレッスンはそれが全く関係ありません。日本のどこであろうが、世界のどこであろうがレッスンが可能なわけです。


レッスンは1対1のスタイルに限りません。例えば吹奏楽部のレッスンもオンラインでできる可能性は十分にあります。地方の学校は特に、講師を呼ぶだけでも経費がとてもかかってしまいますが、オンラインならそれが必要ありません。


また、オンラインは座学にも向きますから、音楽理論の勉強、楽典にはじまる音大・音高受験対策レッスンは非常に効率的です。


音大受験のひとつである「聴音(ピアノの演奏を楽譜に書き取る試験)」も、例えば予め先生が録画したデータをYouTubeにアップするなどして生徒さんはその動画で楽譜を書き、その回答を写真で送ってもらえれば採点ができます。


これは僕がすでに実施していることですが、講習会はまさにZOOMとの相性がバッチリで、6月から喋りまくってます。今年12月までに全14回実施予定で、全て違うテーマでお話ししています。ご興味ありましたらぜひご参加いただきたいですし、ZOOMのレコーディング機能を使って「見逃し配信」サービスも展開しています。この見逃し配信というのもオンラインでの大変大きなメリットです。

オンラインでのコンサート、というのも有意義ですね。コロナ騒動が始まり自粛という言葉が飛び交っていて直後の4月から5月あたりは、演奏家がこぞって自分の演奏をSNSにアップしていましたが、徐々にきちんとしたコンサートを有料で配信するようになってきました。


これはとても良い方向性だと思います。特にクラシック音楽は今までコンサートホールに行くしか方法がなかったために、本当に好きな人でなければ足を運びませんでした。しかしオンラインになることで今までよりもずっと気軽に視聴できるので、上手く運営できれば集客もファンも増えるのでは、と思います。


また、ヤマハが開発した「SYNCROOM」というアプリは僕自身も大変興味があるのですが、音の遅れが非常に少なく、複数名が同時に音を出せるので、セッションやアンサンブルもできますし、レッスンという観点だと対面レッスンと同じことができるのではないか、と感じます。

SYNCROOMは音声だけなので、ZOOMと組み合わせれば可能性は広がりますね。設定が大変なので、内容によって使い分けるなどが必要かもしれませんが。時間を見つけていろいろ試してみたいと思っています。


オンラインの可能性はまだまだこれから発展していきます。通信速度や通信容量が飛躍的に大きくなる5Gが一般的になれば、SYNCROOMの動画版ようなものもすぐできると思います。そうなるとかなり楽しくなりそうですね。


可能性があるものは余さず使い、良いところをクローズアップして最大限利用する。このスタンスで今後もチャレンジしていきたいと思います。


先ほどお話した超pp練習について、もしご興味がありましたらぜひプレスト音楽教室のオンラインレッスンにお申し込みください。もちろん対面レッスンも実施中です!



それではまた来週!



荻原明(おぎわらあきら)

[明日締め切り]トランペットオンライン講習会 8月23日(日)は「ハイノート」がテーマです!

トランペットから音を出さない聴講型のオンライン講習会。8月23日(日)開催のテーマは「ハイノート(音域変化)」について。締め切りは明日です!今すぐお申し込みください!

リアルタイムでご参加いただけない方は、見逃し配信のご視聴申し込みもご用意しております。

詳しくはプレスト音楽教室オフィシャルサイトをご覧ください!お申し込みもこちらで承ります。

ラッパの吹き方:Re

隔週土曜日の朝更新トランペットと音楽についてのブログ「ラッパの吹き方:Re」 タイトルの「Re」は「Reconstruction(再構築)」とか「Rewrite(書き直し)」の意。 なので「ラッパの吹き方 ”リ”」と読んでください。 荻原明(おぎわらあきら):トランペット奏者、東京音楽大学講師、プレスト音楽教室講師