#066.マウスピースリムの役割

日常、当たり前のように使っているものが「なぜその機能を果たすのか」を明確に理解していないことって結構あります。例えば水道。我々は何も考えずに蛇口をひねって水を出したりしますが、その蛇口内部がどのような仕組みなのか、私はよく知りません。


ちなみにこうなっているようです。なんとなく想像はできていたけれど、具体的なところは今初めて知りました。

そしてここからが本題。

トランペットのマウスピースの『リム』って一体何なのでしょうか。


「唇に当てる部分」


そうです、正解。


ただ、本当に聞きたかったのは「演奏するにあたってマウスピースリムがどのような役割を持っているのか」ということでした。


これがわかると演奏(セッティング)の上で人間が何をすべきかが具体的に見えてきます。



マウスピースリム

唇が直接当たる部分なので、「唇に当てた時の感覚」が自分に合っているか、ということだけを意識して選んでしまっているように感じますが、実際のリムの存在はそれだけではありません。



貼りつく部分

具体的に言うと、リムは「唇周辺と貼りつく」機能を持っています。ではその機能によって何が起こるのでしょうか。


まず貼りつくことで「唇周辺との位置がずれない」ことがひとつ挙げられます。これは、筋力を一生懸命に使って位置を固定しようと頑張る必要がない、と言い換えられます。それは単にリムが触れている表面的な部分に限らず、音を出すための唇やアパチュア等のそれぞれの分量バランスを維持してくれる意味も含まれます(後述します)。


リムの貼りつきに頼ることで人間が努力することが減り、「無駄な筋力を使わない」ことにつながります。筋肉は収縮(使うこと)していればいつか必ず疲労し、弛緩(使わない状態に戻ること)したくなります。ということは、演奏に必要な要素を用意するために筋力を積極的に使ってしまうと筋力バテを起こしやすい、と言えます。ですから、バテにくい演奏をするためには、そもそも最初から筋力を積極的に用いず、リムに大いに頼ることが大切なのです。



アパチュア(唇)の分量調節

貼りつくことと関連していますが、音を出すために絶対必要な「上唇」「下唇」そしてそれらの分量調節によってうまれる「アパチュアサイズ」をセッティング時に決定し、その状態を維持するためにリムが機能しています。


前述の通り、音(唇の振動)が自然発生するためのベストな分量バランスを用意できたとしても、それを自分の筋力で固定するのは実質無理なことで、すぐに筋力の限界が来てしまいます。


仮にこの方法で演奏をして、筋力の限界を迎えた際、サポートしてくれる何かを求めます。その「何か」が「過度なプレス」です。唇(周辺)にリムを押し付けることで一時的に位置を固定することができます。しかしこれは貼り付いているのではなく「強く押し付けて」いるため、今度は急激に血流が悪くなり唇の振動が不安定になる「血流バテ」が起きてしまうのです。


また、唇を押し付けてしまえば結果的に唇は押し潰され、ベストな分量バランスが崩れてアパチュアが潰れてなくなります。アパチュアという空気の通り穴がなくなれば当然体内の空気が外に出なくなるために、大変息苦しい状態になります。


アパチュアが存在するからこそ、唇は振動してくれるわけですから、それがなくなった今、発音の方法という根本的なところを変える必要が出てきてしまいます。それが「セルフバズィング」と呼ばれる唇を振動させるもうひとつの方法なのですが、これで発生する音はとてもか細くてピッチの高い(体内が高圧だから)息苦しいサウンドです。


そしてこの演奏方法自体が体に大変な負担をかけているため、結局すぐバテて演奏できなくなってしまいます。


なんだかイヤな話になってしまいましたが、結局のところ唇が健康でいられるためにマウスピースリムにできるだけ頼りましょう、という話がしたかったのです。



歯との関係

最初にも書きましたがリムは唇(周辺)と直接接触するために、「唇とリム」の関係性に限定しがちで、選定時にも「唇に当てた時の感覚」に限って決めている場合が多いように感じます。しかし、リムは唇以上に「前歯」との関係性が深いのです。


楽器を構えた時のベストな角度は奏者によって違います。これは前歯の噛み合わせや歯並びが強く影響しています。


もっと詳しく言うと、演奏する際の「上下の前歯の開き具合」とリムの大きさや厚さ、形状が強く影響していて、演奏中の前歯の開きの中に先ほど話題に出た「上唇」「下唇」そして「アパチュア」が用意されることになるわけですから、マウスピースのリムは唇以上に自分の「演奏中の前歯」とフィットするものを選ぶ必要があるわけです。



本当に歯と関係性が深いの?

トランペットを演奏していて、マウスピースリムと歯が深く関係しているように感じない方も多いと思います。それは歯に直接的な触覚がないからで、一方で唇の触覚は大変敏感だからという理由があります。


ではどのくらい歯との関係性が強いか、実際に試してみてください。


上下の前歯が軽く触れた状態でマウスピースを唇に当てると、「こんな状態では絶対に吹けない」と違和感を覚えるはずです。リムはいつもより歯の根本と関係性が強くなっているからです。


一方で前歯の開きををとても大きくしてマウスピースを唇に当てると、やはり「これじゃあ演奏できない」と感じるはずです。場合によってはマウスピースが口の中に入ってしまうかもしれません。


そして、これらの実験をしている際に、唇の分量をいろいろ変えたところで、やはり「これでは吹けない!」という結果になるのがわかると思います。これがマウスピースリムと歯の関係です。



さていかがでしょうか。


マウスピースは大変多くの種類があり、その中にはリムの形状、サイズもバリエーション豊かです。なぜひとつの形に統一されないかといえば、今回お話したように人間の歯並びや歯の大きさ、唇のサイズなどに個体差があるからです。


マウスピースを選ぶ際、カップの深さ、リムと唇の触れた感じも当然意識するわけですが、同時にリムと歯の相性についても意識してみると、より自分のベストに出会えると思います。

ぜひ参考にしてください。


それではまた来週!



荻原明(おぎわらあきら)

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ラッパの吹き方:Re

隔週土曜日の朝更新トランペットと音楽についてのブログ「ラッパの吹き方:Re」 タイトルの「Re」は「Reconstruction(再構築)」とか「Rewrite(書き直し)」の意。 なので「ラッパの吹き方 ”リ”」と読んでください。 荻原明(おぎわらあきら):トランペット奏者、東京音楽大学講師、プレスト音楽教室講師