#067.「〜しなければならない」と考えない

楽譜にはたくさんの指示記号や文字が書かれています。アクセントやスラーなどアーティキュレーションの記号、テンポに関するもの、曲想に関するもの、ミュートなどの具体的な行為に対する指示など。


音符以外にもこのようなたくさんの情報が記載されて楽譜は作られています。


これらは当然作曲者(編曲者)によって書かれました。したがって楽譜に書かれているものはすべて彼らからのメッセージである、と言えるわけです。


演奏者は、そうした作曲者からのたくさんのメッセージを的確に汲み取り、演奏に反映していくわけですが、その際、捉え方で想像力の広がりが大きく変わるちょっとしたポイントがあります。今回はそんなお話です。



「must」を使ってはならない

英語の「must」は「〜しなければならない」という意味があります。


音楽に限らず生活の中で「〜しなければならない」という言葉にはよく出会います。強制的な言い回しのために「must」の言葉には自分の発想を抑え込まされてしまう力があります。


楽譜に書かれた作曲者からのメッセージである記号や文字を「must」「〜しなければならない」の発想で捉えると、演奏者は身動きが取れない感覚になります。


例えば、「スタッカート(staccato)」。スタッカートは楽語辞典で調べると「音を短く」という意味が真っ先に出てきます。その言葉自体はもちろん合っていますが、これを「must」で捉えると、「短い音を発しなければならない」と、受け身になりがちです。


減速指示の「リタルダンド(ritardando)」も同様、「書いてあるから遅くしなければ」という発想になり、自分の意思と関係なく機能としての演奏表現をしてしまうかもしれません。


このように「そう書いてあるからそうします」と受け身で捉えてしまうと、本来音楽で重要な「演奏者独自のイマジネーションの発信」がなくなり、単なる楽譜に書いてある音を再現する人、作曲家の代弁者になってしまいます。これではコンピュータに入力した音を再生するのと何ら変わりありません。これではマズい。


ではどうしたら良いでしょうか。

そこでひとつの提案をしたいと思います。



対照的なイメージを持ってみる

例えば「スタッカート」と指示がある箇所を、これでもかと言うくらいテヌートで演奏してみるのです。何ならスラーでも良いでしょう。ベタベタとひっぱるように音と音がくっついてしまうように。


作曲者からしてみれば、最もそうなってほしくない真逆の演奏ですね。当然人前でそのような演奏をすることは作曲者に失礼なのでダメですが、自分一人の練習時にこのような演奏をすることで、作曲者が本当はどのような演奏を望んでいるのかを受け身ではない「奏者自身の解釈」という広い可能性の中で見つけられるのです。


「リタルダンド」も同じです。わざとテンポを速めて駆け抜けてしまいましょう。その真逆の演奏に対して自分自身に違和感を覚えたら、ではどのようにすると(自分自身も)しっくりくるのかがイメージできると、それが結果的に作曲者が思い描いた可能性の結果のひとつになるはずです。


いかがでしょうか。楽譜はあくまでも「目安」であり、作曲家からのメッセージが100%掲載されているものではありません。しかも楽譜は書き方にある程度のルールが定められているため、作曲者は妥協した上で記号を記していると考えられます(その完璧に埋められていない楽譜が演奏者の自由な発想によって埋められることを期待している場合も多々あります)。


練習において「must」は不自由にさせられ、受け身になりやすい発想です。そうならないよう、対照的な結果を体感し、自由な発想で演奏ができるよう取り組んでみましょう。


それではまた来週!



荻原明(おぎわらあきら)

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隔週土曜日の朝更新トランペットと音楽についてのブログ「ラッパの吹き方:Re」 タイトルの「Re」は「Reconstruction(再構築)」とか「Rewrite(書き直し)」の意。 なので「ラッパの吹き方 ”リ”」と読んでください。 荻原明(おぎわらあきら):トランペット奏者、東京音楽大学講師、プレスト音楽教室講師