#070.音程感は予測力

「音程感が良い/悪い」という言葉、よく耳にしますね。


ところで「音程」の意味は正しく理解しているでしょうか?「ピッチ」と混同していませんか?


ピッチというのは「周波数」です。空気の振動数。私たちがチューナーという機械で計測しているのはこれです。したがって、ピッチとは、音ひとつに対して指す言葉とわかります。


一方、音程というのは「2つの音の隔たり(距離)」という意味です。


音楽を聴いている側はいちいちピッチを計測しているわけではありませんから、もっとシンプルに、音が出て、次の音が鳴ったことで音楽だ、とかメロディだと感じます。ちなみに、「音痴」というのは音程で感じています。しかも「音痴だ!」と感じた瞬間の音がよく悪者にされますが、そのひとつ前の音に原因があることが多いです。


音痴だな、と思われたくないので日頃から音程に対するこだわりを持っておきたいものです。



予測力を身につけよう

皆さんはボール投げをしたことが一度くらいあると思います。例えばキャッチボールのように相手がいた場合、その相手にちょうど届くようにボールを投げます。その距離って厳密に計測して「よし8.553mだな、ではボールをこう持って、このくらい振りかぶって、…」こんなこと考えもしませんね。もっとざっくりとした感覚で投げています。


多少の誤差はあるものの、きちんとボールを投げられれば大概相手にボールは届きます。これは投げる前に「距離を予測」をしたことで結果が伴っているわけです。



音程と予測力

音程に関してもこれと同じような感覚を持っておきたいのです。

最初に鳴った音に対して「次の音はこの音だ」と頭や心の中で思い描く「予測力」。


実験してみましょう。例えばピアノなどで「ドミソ」の和音を弾き、続けて「ド」を単音で鳴らし、隣の「レ」を歌ってみてください。


これができていれば予測力を持っていると言えます。もちろん、隣の音は取りやすく、音程が広くなったり、「ドミソ」を鳴らして「ミのフラット」を歌うなど難しく感じる音程も沢山あります。


自分の頭や心の中に次の音を思い描き、それを声に出して歌える力を持っていると、トランペットを演奏している時にも無意識にそのスキルが発動し、音程に対してのイメージの強さやこだわりを持てるようになっていくはずです。


このような次の音を予測する力を「相対音感」と呼ぶこともあります。



絶対音感

「音感」というワードが出てくると「絶対音感」を思い描く方も多いかと思います。


絶対音感とは、例えばコップがお皿と接触した際に「カーン」と鳴ったそれを「ラのフラットだ」と瞬時に理解する力です。ここまでいかないにしても、幼い頃にピアノを習っていた方は、聞こえてきた音が鍵盤のどの位置に当たるのか、理解できる瞬間ありませんか?それも絶対音感です。


これが演奏にどのくらい役に立つのかわかりませんし、トランペットのようにB管やEs管など移調楽器を沢山扱い、その上楽譜までもが移調されている場合は混乱して辛い方もいらっしゃるようです。


私はまったく絶対音感を持っていないのでそのメリット/デメリットを体感したことがありませんが、ぶっちゃけトランペットの演奏に関しては、あまり役立っているように感じた人に出会っていません。チューナーがなくても最初から予測したり、それが正しいかどうかを判断する力を持っているという点ではメリットなのかもしれません。



予測力を身につける練習

音程感を良くするために心がけたいことは、チューナー依存にならないことです。


最初に出した音が安定していることが美しく、正しい音程で演奏することには必要ではありますが、自分が演奏する前からチューナーを見続けてしまうと、出した音のジャッジが仮に合っていなかった時、無意識に口の周りやプレスなどで操作して取り繕ってしまいがちです。これでは一時的にピッチを安定「させた」に過ぎず、意味がありません。


チューナーは音を出してから確認します。そして結果を受け入れます。もし合っていなくても「今はこのように演奏した結果こうなったのか」と理解できれば、「では次はこのようにセッティングしてみよう」と繋がっていくわけです。こうした根本的なところから正しいピッチを演奏できるように日々の練習を積み重ねていってください。


そして、先ほど解説したようにピアノなどを使って予測した音程を歌えるようにし、それからトランペットでも同じことをしてみる。この流れが大切です。


また、音感を心や頭に思い描くには、それなりの材料が必要です。そのために、たくさんの素晴らしい演奏を聴いて、耳を養ってください。


地味な練習ですから、ウォームアップなどに取り入れて、毎回の練習が「音程感を意識する姿勢」であるようにするのがおすすめです。曲を通したりする練習でチューナー片手にピッチだ音程だと考えすぎていると、今度は表現力が生まれませんからね。


ということで、「音程の予測力」を身につける練習、ぜひ実践してください。



それではまた来週!




荻原明(おぎわらあきら)

トランペットオンライン講習会、今後のテーマは「上達の三要素『練習、研究、実験』」「楽譜を学ぼう」がテーマです!

トランペットから音を出さない聴講型のオンライン講習会の今後近々に開催するテーマは、10月4日開催「上達の三要素『練習、研究、実験』」。本番以外で楽器を吹く事を「練習」とひとくくりで言う場合が多いのですが、的確に結果を導くためには練習を細分化して考えるべきです。効率的な時間にするための考え方とそれぞれの実践方法を解説します。

そして10月18日(日)は「楽譜を学ぼう1:アーティキュレーション」、さらに11月1日(日)はその続きで「楽譜を学ぼう2:テンポ、ダイナミクス(強弱記号)」です!


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ラッパの吹き方:Re

隔週土曜日の朝更新トランペットと音楽についてのブログ「ラッパの吹き方:Re」 タイトルの「Re」は「Reconstruction(再構築)」とか「Rewrite(書き直し)」の意。 なので「ラッパの吹き方 ”リ”」と読んでください。 荻原明(おぎわらあきら):トランペット奏者、東京音楽大学講師、プレスト音楽教室講師