「音のツボ」。よく話題になりますし、私自身もよく使う言葉ではあります。
ではこの「音のツボ」、一体何なのでしょう。一言で言えば、こういう表現が適切かな、と思います。
『コンセプトの具現化』
「コンセプト」とは
辞書で「コンセプト」を調べると「意図、構想、テーマ」などと書かれています。今回の場合は「楽器製作者のコンセプト」を指しています。
トランペットはどれも同じような形をしていますがよく見るとパーツの位置や形状が少しずつ違っていたり、表面をコーティングしているものもメッキやラッカーなど様々で、見た目にはわかりませんが金属の質も当然こだわりがあるはずです。それらすべてが音色や響きに影響を与えていると考えられます。
だからこそトランペットは未だひとつの形に統一されず、様々なメーカーがマイナーチェンジを繰り返し、新しいシリーズが発売されているわけです。
そうしたコンセプトが、結果的にメーカーごとの個性につながっていると思います。これは完全に主観なので共感してもらえなくて構わないのですが、例えばBach(バック)でしたらコロコロっとした艶やかなまとまりのあるサウンドのイメージが私にはあり、また、ヤマハはサテンのようなサラリとした質感の音色が暖かく響くイメージがあります。言語化するのは大変に難しいのですが、みなさんもご自身が使っている「その楽器」がどのようなサウンドを備えているのか、追求してほしいと思います。また、たくさんの演奏を聴いたり、実際に演奏してみるとメーカーのコンセプトを感じる瞬間に出会えるかもしれません。
「ツボ」は抽象的であり、具体的でもある
さてこのようにそれぞれのメーカー、それぞれの楽器は「コンセプト」の上に作られており、そのコンセプトを実際の演奏で反映させられたらそれがイコール「ツボに当たった状態」と言えるわけです。
ツボに当たった音を実現するために最も重要な点は「自分ひとりで音を作り出している感覚に陥らないこと」です。これをしてしまうと何の楽器であっても同じ音になってしまい、差が出ません。
よく、トランペットを演奏する上で話題になる「バズィング」。確かに唇が振動することでトランペットから音が発生するのですが、マウスピースも楽器も使わず、口の周りに力を込めてビービー振動させているそれはトランペットから音を発生させる方法とはまったく違います。この発想や行為ががまさに「自分ひとりで音を作り出そうとしている状態」であり、楽器にまったく頼らないわけですから当然、楽器が持っている音を発生させることはできないのです。この方法でトランペットから出てくる音は「自分の力で頑張って発生させた単なる唇の振動音」ですから、楽器のコンセプトはまったくわかりません。
それぞれの楽器のコンセプトを知るためには人間は「最低限のこと」だけをして、他の部分は楽器に頼る必要があります。
ここで言う「最低限のこと」とは言い換えるならば「トランペット自身にはできないこと」です。例えばトランペットは「音を発生させるシステム」が不十分な状態です。例えば音の発信源である唇の振動や、その振動を発生させるための体内の空気圧は人間でないと用意できません。これから鳴らそうとしている音やそのピッチが頭の中できちんと鳴っているか(歌えるか)、どのような音色を鳴らそうをしているのか、そうしたイメージの強さ=ソルフェージュ力も含まれます。「トランペット自身にはできない」とはそういったことです。
コンセプトは安定している
さて、次に製作者の立場になって考えてみましょう。楽器制作において重要なことは、音程、音色、機能性など様々な部分でどれだけ安定しているかです。仮に音程の悪い楽器を世間に流通させてしまえばたちまち悪い噂が広まり、誰も買ってくれなくなります。これでは死活問題。
そう考えると、管楽器の専門店が取り扱っている楽器は一定の評価がされているメーカーしか置かれていないと考えるのが妥当です(個体差についてはここでは言及していません)。
では奏者側から考えてみましょう。
以前このブログでこんな記事を書きました。
この記事の中でも「楽器は安定したピッチが鳴るように設計されているので、チューニングしたらものすごいピッチが高かったからと言って、主管(チューニングスライド)をグイグイと何cmも抜くのは、より不安定な状態を生み出している」といった趣旨のお話しをしました。このように思うように鳴らない、不安定な演奏になってしまうその原因のすべては楽器ではなく奏者にあるとまず考えるべきなのです。
まとめ
これらのことから、ツボに当たるということは、結果的に音色、ピッチが安定している状態であると言え、その状態を実現させるために奏者は必要最低限のことだけをするわけです。
また、漠然と「安定している」というだけでなく、それぞれのメーカーのコンセプトをあらかじめ理解しておくことや、実際にツボに当たった状態の演奏をたくさん聴いていれば、求めていくサウンドイメージを持った上でこれらの研究や実験を行えるわけですから、結果にたどり着きやすいはずです。
ツボに当たった音はホールで大変よく響くので、p(ピアノ)で軽く演奏してもその存在は客席に届きます。また、演奏している体のバランスも良いので音がはずれにくくなります。
「音のツボ」は漠然とした言葉なのでわかりにくいのですが、要するに安定していて人間の負担がかからない理想的な状態を目指すことと考え、研究や実験をたくさんして欲しいと思います。
ということで、今回の記事が今年最後です。今年一年も「ラッパの吹き方:Re」をご覧くださいましてありがとうございました。
来年もトランペットを演奏される方にとって参考になるブログを書き続けてまいりますので、今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。
みなさまにとって来年が良い一年になりますよう。
それでは良いお年を!そしてまた来週!
荻原明(おぎわらあきら)
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