マウスピースと唇の関係は常に議論される部分のひとつと言えます。
延々と議論が繰り返されているということは、決定的な結論がないからで、そして決定的な結論がない理由は「個人差」があるからです。
ですから、こうした内容については「正解は自分の中にある」と考えることが大切です。教わるというよりも見つけるのほうが正しいです。
マウスピースの唇へのプレス
さて、マウスピースの唇へのプレスですが、結論から言うとプレスは必要な存在です。プレスをしないほうが良いという考えの人が、極力唇を浮かせて演奏しようとする奏法が流行った(?)時期もあるのですが、プレスがないと自分の筋力で一生懸命に音を出す状態をキープしなければならず、大変な筋力を必要としてしまいます。必要以上に負担がかかり、いつバテてもおかしくない状態で演奏するなんて、不安ですし、この根底にあるのは「鍛える」という発想ですから、私の感覚からすれば「違う」と感じてしまいます。
プレスの目的
プレスの目的は押しつけることそのものではなく「密着」です。その理由は2つあり、ひとつは「空気漏れを防ぐ」ということ。もうひとつは「唇との位置がずれない」ということです。音を出すセッティング時にこれらの目的を達成するよう心がけます。
[空気漏れを防ぐ]
唇の粘膜とマウスピースのリムは軽く触れただけで密着します。ただし、リップクリームを塗ったばかりだったり、口の周りに汗を書いていると密着しません。密着は強く押し付ける必要はありません。ですから、グイグイ押し付けてもそれが空気漏れしないこととは関連性がなく、そうした負担をかけずに日常の唇の状態をまず基本として「触れる」だけで良いと考えましょう。
ですから、空気漏れをしてしまう原因は、例えば顎を移動してセッティングしているとか(噛み合わせがずれていれば唇の位置もずれる)、顔がいつもより下を向いている(これも顎の位置が変わる原因)などが考えられます。また、歯並びに対して楽器の角度がふさわしくないと、これもやはり顎が移動したり首が傾いてしまうなどで空気漏れが起きやすいのです。例えば、中学校の吹奏楽部などで、ベルの角度を全員真正面に統一させれば、ほぼ全員本来不要な負担が発生してしまいます。
空気漏れが起これば当然体内の空気圧をキープすることが難しくなり、必要以上に腹筋を必要としたり、高音域が鳴りにくくなります。口の中での共鳴も生み出しにくいので硬くて表面的な細く鳴らない音、いわゆる「そば鳴り」になるでしょう。
[唇との位置がずれない]
この「唇」というのはもちろんリムと接触している外側の部分なのですが、ずれて欲しくない唇の部分は表面ではなく口の中です。トランペットは口の中にくいこんだ唇の粘膜部分の振動によって音を出しているので、ここがずれたり移動すると音が出なかったりと不安定になります。
マウスピースのセッティング
では具体的に唇とマウスピースのプレスはどのような状態が良いのでしょうか。セッティングから考えてみます。
求める結論から言うと「マウスピースの乗っかりに抗う高反発状態を作る」ということです。
マウスピースのリムが唇にグイっと押し付けられてしまうと唇は簡単に潰れてしまい、瞬間で血流が悪くなったり、振動する場所を減らしてしまいがちです。そのために、セッティングの動作の中で、マウスピースのリムに対抗する、「高反発枕」のような唇の状態を作り出せるようにします。したがって、プレスは「半分はマウスピースから、もう半分は自分の唇からプレスをかけにいっている」と考えてください。
セッティングは上唇にマウスピースリムを触れるところからスタートしますが、その触れ方は非常に軽い状態です(でも密着しています)。その後、前歯の上下に隙間を作り、次に下唇が、やはり非常に軽い状態でマウスピースリムと触れるのですが、その後唇の中央にごく小さな空気の通り穴である「アパチュア」を作ることになります(口の中にアパチュアを作るよう心がけます)。
唇の中央に穴を作るわけですから、ほんのの少しだけ唇の両サイドから「すぼめる」動きをするわけです(口の中がすぼまるように意識します)。すぼめるのは主に下唇だけで(上唇に力をかけると、そもそも力をかけることに慣れていないためにバテたりバランスが崩れたりしがちです)、その動きによって唇とその周辺の肉が集まってくることになり、少しですが唇が厚みを増します。これが先ほど言った「高反発」の状態です。この動きにより、結果的にマウスピースリムに向かう力ともなって、プレスが起きるというわけです。
いかがでしょうか。「プレス」と言ってもマウスピースを押し付けに行くのではなく、「結果的にプレスが起きる」と考えておきましょう。
ということで、今回は「プレス」についてお話しました。ぜひご自身のベストバランスを見つけてください。
それではまた来週!
荻原明(おぎわらあきら)
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