#107.個人練習について考える その3「根性練習は危険!」

ただ今「個人練習について考える」と題し、自分ひとりで練習する際に知っておきたいことを書いております。今回はその3回目です。


これまでの2回の記事はこちらからご覧いただけます。

反復練習と数打ちゃ当たるは全然違う

レッスンでよくある光景。生徒さんが自分の演奏した結果に納得いかず、何度も何度も吹き直す。そしてそれを見守る私。

お気持ちは大変よくわかります。ただ、練習は自分ひとりの時間で、レッスンは情報を得る場、と考えているので、あまりこうなって欲しくないのですが、確かに成功体験をしてから次へ行きたいですよね、僕もそうです。わかります。

まあ、レッスンでは別に構いませんが、気になるのは「個人練習時も同じ状況になっているのでは」という点です。


何度も何度も吹いて吹いて吹きまくる練習の根底には「根性論」が巣食っていて、よく混同される「反復練習」は「理論」と「研究」と「実験」によって的確に行われるものなので、これらはまったく違うものです。


根性論から生まれる吹き直し練習は「数打ちゃ当たる方式」であり、仮に何十回、何百回吹いているうちの偶然1回の成功が「なぜ成功したのか理由がわからない」ために、次の成功がいつ来るのか予測できません。


では、具体的にこの根性論から生まれる吹き直し練習の何が問題なのか考えてみましょう。


根性練習の問題点1「時間の使い方が尋常ではない」

苦手なフレーズや解決したい課題に対して、何度も何度も吹いて解決しようとすれば当然時間がそれだけ必要になります。これは効率性とは真逆の行為です。時間を有効に使うためにもこの練習は避けるべきなのです。



根性練習の問題点2「応用が効かない」

仮に500回繰り返して演奏できるようになったとしても、それは単に「その部分が吹けるようになった」だけです。次に出てきた難しい箇所を吹けるようにするためにまた何百回も吹く必要が出てきます。このように繰り返すだけの頭を使わない練習方法は応用力が育たないために非効率的なのです。



根性練習の問題点3「休憩をとらなくなる」

根性論によって生まれる集中は、自分の心や体を追い込むことで「自分頑張ってる!」と実感したがる精神状態です。

おかしいですね、本来の目標は「その部分を吹けるようにする」ことだったはずなのに、楽器を吹くことそのものが目標になってしまいました。

楽器を吹くことがそのものが目標になるので、休憩を取ることは良くない、休憩をするのが(自分に対して)負けであると感じてしまうかもしれません。


ご存知のようにトランペットは数分間吹き続けることすら非常に難しいシビアな楽器ですから、休憩を的確に取ることは練習する上で絶対に必要です。昭和の時代に言われていた「バテてからが練習だ!」という発想に陥ったら最後、もはや戦時中の精神論へとタイムスリップです。



根性練習の問題点4「精神が不安定になる」

自分を追い込むことで得られる「自分練習している!」という精神状態は、それが開放された瞬間の快楽を求めるためにのみ存在しています。サウナに入っている状態に似ていますね(サウナは代謝をよくするなど意味のある行為です)。確かに、ガマンすることで折れにくい心が育つかもしれませんが、今回のテーマは「難しい箇所を効率的に演奏できるようにする」ですから、目的が全然違います。


精神の追い込みは心が健康な時であれば耐えられますが、それが何度も続くとどんどん辛くなってしまい、その結果「またやらなきゃいけないのか」とか「もうやりたくないな」と、トランペットを吹く行為そのものから逃げたくなり、結果として「音楽(練習)=辛く、大変なもの」になってしまうかもしれません。これはいけません。音楽は常に楽しくあるべきです。


今一度確認しましょう

そもそも、繰り返しその箇所を吹いていたのは何のためですか?「その箇所が吹けるようになるため」ですね。

吹けるようになることが目標であるなら、そこに精神的、肉体的な疲労を極力伴わない効率的な方法を模索することが最優先です。頭を使って、最も短時間に確実な結果を手に入れるためにどうすれば良いのか。これを「練習以外の時間に」考えておくことが大切です。


練習を積み重ねていくとわかってくるのですが、音楽はある程度の「パターン」があります。最初の頃は頭を使って実践していてもどうしてもある程度のまとまった時間が必要になるかもしれませんが、積み重ねにより成長していくと、徐々に効率的に解決できるようになり、初見なのにこれまでに得たスキルで演奏できてしまうことも結構あるのです。


自信を持つための繰り返し練習は問題ない

繰り返し練習のもう別の目的として「自信を持つため」とか「もっとクオリティを高める」というものもあります。もちろんこの練習は、今回のお話だった「演奏できない箇所」が解決してから始める練習です。何度もミスなく演奏できる目標を持ち、本番を想定して繰り返し練習してみましょう。


ということで今回はここまでなのですが、多分皆さんは「効率的な練習方法を教えてほしい!」でしょう。これについてはもう少し個人練習のことを書いてから、このブログに書きますので、引き続きご覧いただければと思います。


それでは、また来週!




荻原明(おぎわらあきら)


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ラッパの吹き方:Re

隔週土曜日の朝更新トランペットと音楽についてのブログ「ラッパの吹き方:Re」 タイトルの「Re」は「Reconstruction(再構築)」とか「Rewrite(書き直し)」の意。 なので「ラッパの吹き方 ”リ”」と読んでください。 荻原明(おぎわらあきら):トランペット奏者、東京音楽大学講師、プレスト音楽教室講師