前回より ”もしも一日中音楽だけの生活ができたら”という想定で何をするかをシミュレーションしています。
前回の記事ではウォームアップ→基礎練習(大きく2つの内容にわけられる)というところまで書きました。
あくまでもこれはシミュレーションですから、必ずしもこの順番で行う必要はなく、「練習とはどんなことをする時間か」をお伝えすることで、ご自身が求めるものに向かってそれぞれの分量バランスを調整し、その日に行う内容の参考にしていただけたら幸いです。
ぜひ前回の記事より続けてご覧ください。
では続きです。
[曲の練習]
前回解説したいわゆる「基礎練習」を行う意味は、楽曲を演奏するためです。たまにSNSなどで「基礎練習楽しい!」と言っている方がいて、とても素晴らしいと思いますが(私も結構好きです)、その基礎練習の先には必ず楽曲がある想定で行うことが大切です。そうしないと、単なる音階練習がキレイに演奏できた!ということで満足してしまいます。「その音階練習は何のために行っているのか、クオリティアップを図っているのか」を明確に持つようにしましょう。
したがって、基礎練習で得たスキルを実際の楽曲で使えるように応用力を手に入れるための練習、いわゆる「曲練習」を行います。使用する作品は、楽団や部活動に所属している方はおのずと楽曲は決まってくるかもしれませんし、普段演奏しない作品、憧れの作品、目標にしている作品があるかもしません。楽曲は無限にありますので、自由にセッティングをしてください。
さて、曲の練習をしていく上でひとつ確認しておきたいことがあります。それは、どのような楽曲でも細かく分解すると結局のところ基礎練習メニューの集合体である点。様々なリズム、音の跳躍、スラーやフレージング、アーティキュレーション、音量変化など。ですから、ただその作品を適当に演奏して「(できないところもあったけど)あー楽しかった」にならないよう、それぞれの部分でどういったテクニックを要求されているのかを分析し、それらが自分の演奏力で補えているかを検証してください。
できていないところから目を背けない、ということです。
「なんかここ吹きにくいなあ」「ここ、ぜったいミスするんだよなあ」とイライラせず、「なぜ吹きにくいと感じるのか」「なぜミスをしてしまうのか」と冷静に、では今必要なものは何で、どんな練習なのかを考えてください。演奏できない、難しいと感じるところは、現時点でそのスキルを持っていないか、もしくはそのスキルが何らかの理由で発動していないと考えられますから、こうなった場合は曲から一旦離れて基礎練習に戻ります。
[ピンポイントな基礎練習]
楽曲で難しい、うまく演奏できないからと、その部分を何百回も繰り返すのは非効率的です。どういったテクニックが必要かを見抜いたら、教本などの同じカテゴリーの部分に一旦戻りましょう。苦手な理由を理解し、解決するために研究、実験を繰り返します。そしてある程度できるようになってきたらまた曲のその部分に戻って実際に演奏してみます。
ですから、実は基礎練習と曲練習は常にリンクしていて、行ったり来たりするものなのです。
[表現力]
これまでのお話しはどちらかと言うと楽譜に書かれたものを正確に表現するためのテクニカル(技術的)練習について書きました。練習と言うとそうした内容が多くなってしまうのは否めないのですが、これだけを追求していっても、その先にあるのは機械的な正確さを再現できる奏者になってしまいます。音楽にはそうした技術の他にいわゆる表現力、「歌う」力が非常に大切で、その力を身につけるための練習時間も大変多く必要と考えます。
とは言え、「じゃあこのメロディを歌うように演奏しよう」と言ってそれがすぐできるわけではありません。歌うこと、アゴーギク(緩急)、ヴィブラートなどを音楽に乗せて聴く人の心へ説得力のある演奏を届けるためにはまずは「多くの人(マジョリティ)に受け入れらる美しい演奏」をたくさん耳にすることです。
何もないところから何かが突然生まれてくるわけなどなく、したがって「俺は自分の音楽をする!」と言ったところで、資本(=マジョリティな音楽の理解)がなければ自分らしさなど生まれません。多くの人が認める演奏にはきちんと理論的な解釈や根拠などの理由があります。したがって理論的に学ぶことも大切ではありますが、まずはそれよりも何よりもたくさんの演奏を聴いてください。聴いて刺激を受け、良い!と思ったものをどんどん自分の中に取り入れてください。したがって、演奏の表現力を身につけるには楽器の練習をするだけでは足りず、音源や動画を視聴し、そして何よりもコンサートホールやライブハイスなどで生の演奏を聴くことです。どれだけ録音録画技術が進化しても人間が目の前で演奏しているものを体感する影響力にはかないません。
しかし演奏を聴くにはそれだけ時間が必要になります。いくつもの演奏を聴くのであればこうした練習時間よりも他の時間で聴くほうが効率的かもしれませんが、練習の休憩がてら素晴らしいパフォーマンスの演奏を少しずつ鑑賞し、影響を受けるのも良いと思います。
[理論からマジョリティを手に入れる]
素晴らしいパフォーマンスは、視聴しるだけでも影響を受けることはできますが、スコアを片手に鑑賞をすれば、その人が楽譜からどのように演奏表現をしているのかが見えてきます。例えばリタルダンド(rit.)ひとつ取っても表現方法はそれぞれ違いますから聴き比べてみるのも面白いです。
音楽の初歩的な学習は、いかに楽譜に書かれた通り「(機械的反復の)テンポ通り」「(機械的な)ピッチと音程通り)に再現できるかを求められることが多いですが、素晴らしい演奏を聴くと、あくまでも楽譜というのはデータの記録であり、そこから自由に羽ばたいて演奏をしていることがわかるはずです。
[楽譜と対峙する]
今、演奏を聴きながら楽譜を見るお話しをしましたが、一方で音を出さずに楽譜と向き合うことも大切です。難しい理論はなくても良いですが、例えばスコアを見ていると、「この場面はトランペットとクラリネットがユニゾンで演奏しているんだなー」とか「トランペットのアクセントは同じメロディを演奏している他の楽器には書いていないんだ!」とかいろいろな発見があります。楽譜やスコアって見ていると面白いですよ。また、パート譜をじっくりみていると、意外に同じモチーフが何度も出てきているのに気付けたりするかもしれません。楽譜というデータから音楽を読み解く力が持てるようになると、「楽譜通り演奏しなければならない」という、ある意味初期の音楽教育における悪い風習から脱却できるかもしれません(楽譜通り演奏することを否定しているわけではありません)。
こうした楽譜と対峙する時間や音楽を鑑賞する時間は体を休めるためのトランペットの休憩時間としても有効です。
ということで、練習時間にはできることがとても多いことがわかりました。
まだ全部書ききれないので、もう一回このテーマで来週書いてみたいと思います。
ぜひ引き続きご覧ください!!
荻原明(おぎわらあきら)
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