少し前に書いた記事「個人練習について考える その2『効率的な練習』」 では、効率的に、短時間で結果を出せるか、という視点でお話をしました。ぜひこちらの記事もご覧ください。
多くの方は楽器を演奏できる時間は非常に短く、限られているはずです。実際、音楽教室にレッスンにいらっしゃる生徒さんの中にも「前回のレッスンから一度も楽器に触れていません」とおっしゃる方が結構多いです。レッスンをされている先生によっても考え方が様々だとは思いますが、私の場合、音楽教室はあくまでも趣味でトランペットを吹いているわけですから、別に全然構わないと思っています(ただしオイルをさすなどの定期的なメンテナンスだけはやってほしいですが)。
むしろ、講師はそうした様々な事情を持った生徒さん方がいらっしゃることをあらかじめ想定し、それぞれに合わせたレッスン内容、進行ができるスキルを持っているべきだと考えていて、一本調子で講師の持論を全ての生徒さんに押し付けるのはあまりにも不器用だと思います。
しかし現実問題、音楽教室の講師はそのほとんどが音大出身なために、自分が経験してきた「音楽家のためのレッスンプログラム」こそがレッスンであると思い込み、課題を出してそれをフィードバックするいわゆるレッスンの王道パターン以外を見出せない講師がまだまだ多いように感じます。
話がそれてしまいました。ここから本題。
さて、効率的に、短時間で成果を上げられるよう工夫をすることはとても大切なことではありますが、本当の意味で実力を伸ばすのであればそれだけではどうしても足りません。やはり時間をかけて多角的にじっくりと腰を据えて取り組むことはどうしても必要で、そうなるとやはり時間がかかるのは当然です。
ただし今回お話しするのは「上達したければ無理にでも時間を作って全部やりましょう」と言いたいのではなく、上達するために必要な、時間のかかることをお伝えすることで、みなさんそれぞれができる範囲で「(今日は)これならできる」というものを見つけて少しずつ実践して欲しいということでお伝えしております。
では、ここからは具体的な内容を挙げてみますが、せっかくなので「もしも丸一日音楽だけの生活ができたら」とシミュレーションをしたいと思います。
“もしも一日中音楽だけの生活ができたら” シミュレーション
[ウォームアップ]
1日の最初は必ずトランペットのウォームアップからスタートします。
ウォームアップの重要性については以前より様々なところでお伝えしていますが、ウォームアップとは自分のコンディションを観察し、理論的な方法で常に自分の実力を発揮できるようにする行為と定義しています。
ウォームアップはフィジカル(肉体的)な側面が重要視されがちですが、それだけでなく「心や意識が音楽に向き合える落ち着いた状態」であるかがもしかするともっと重要かもしれません。
ウォームアップの具体的な内容や方法に関してはここでは割愛しますが、人間は機械ではありませんから毎日まったく同じコンディションでは絶対にありません。ですから良い時もあれば悪いときもあるという前提でトランペットと向き合うべきと考えているので、その日のコンディションによってウォームアップに費やす時間は大きく変化します。また、ウォームアップの時間の中でもこまめな休憩は絶対に必要ですから、ずーっと吹きっぱなしてウォームアップでバテた、というオチにならないよう心がけてください。
私個人の場合ですが、ウォームアップや準備としてできる限り1時間確保するよう心がけています。コンディションが早く整う場合のほうがほとんどなので、30分程度で終わることも少なくありませんが、精神的にこれくらいあったほうが良いと考えているわけです。
ウォームアップに関しては以前「トランペットウォームアップ本」という本を出版しまして(Amazonにて販売中)、そのウォームアップ本の使い方について、先日オンライン講習会で詳しく解説しましたのでよろしければそちらのアーカイブをご覧ください。
ちなみに、ものすごく調子が悪い場合はこの先の練習メニューを変更し、もっと長い時間ウォームアップとして自分の吹き方と向き合うか、もしくはそれが辛くなりそうだったら、トランペットの練習を中止することをオススメします。そうなったらこれからお話しするトランペット以外のすることをたくさん行うか、もう全部投げて遊びにいきましょう。丸一日音楽漬けになれるわけですから、フリーな1日にしても良いと思うのです。リフレッシュ。
[ウォームアップ後には切り替え休憩を]
話を戻します。
ウォームアップによっていつも通りの(ベスト)コンディションになったら、そのまますぐ他の練習に入らないようにしましょう。ウォームアップは「自分のコンディションと向き合う時間」です。意識のベクトルを自分に向けていたので、実際の音楽のあるべき方向性と真逆になっています。したがって、その状態のまま曲やエチュードを演奏すると作品への向き合い方への切り替えができないのです。
ウォームアップ後は一旦意識を切り替えるための休憩時間を確保しましょう。切り替えるための方法はいろいろだと思いますが例えば素晴らしい演奏の音源や、好きな歌手のライブ映像などを少し見るのも良いと思います。強い発信力のある演奏を聴くことで「自分も多くの人に演奏を伝えたい」と思える状態になれたら良いですね。
[基礎練習]
さてここからいわゆる「練習」になります。今回は基礎練習に入りたいと思います。
ここからのお話しは少し前にも取り上げていますが、もう一度お話しさせてください。
持論ですが基礎練習は大きく分けて2つあると考えます。ひとつは「どんな状況でも絶対に必要な技術」で、いくつか挙げてみますと、
・タンギングの基本的な方法とその引き出しの数
・奏でる音色への強いこだわりと音色へのイメージのリンク、その引き出しの数、切り替えられる力
・ダイナミクス(強弱)と音色、響きの引き出しの数
・音域変化のコントロール(リップスラー)
・音階の知識と実践
こうしたもののクオリティアップを図る練習がひとつです。
そしてもうひとつはそれらを用いて発展的に技術力を高めるために行う練習で、例えば、
・ダブル/トリプルタンギング
・シンコペーションの理解と実践
・付点音符(付点8分音符と16分音符のリズム)の実践
・音の跳躍
・リップトリル
・インターバル(広い音程の移動)
・こうしたすべての練習を様々なテンポで表現する力
・アゴーギクなど歌う表現力(ヴィブラートなども含む)
など。これは挙げるともっとキリがなくて、言うならば作品で要求されるものすべてですから書ききれません。したがってすべきことは山のようにありますし、終わりがありません。
だからと言って「今日は時間があるから全部やる!」というのは体力的にも精神的にも、何よりいくら時間があってもそれは難しいので、今日は何をするのかをあらかじめ決めておくことが大切ですし、当然ただやるだけでは意味がなく、結果を求めていくわけですから目標を持って実践することになります。
しかしここが難しいところで、目標を意識しすぎると、チャレンジしたけれど意外に苦戦する、苦手なものだったということもよくあって、そんな時はあまり頑なに「絶対今日中にトリプルタンギングをマスターするんだ!ウオーーー!」となってしまうと精神が不安定になり、根性練習になってしまったり、焦りになってしまったり、精神力が途切れてしまうので気をつけてください。
練習の目標は、「完全にできるようになる!」というものよりも「今日やったことで得られる何かがあった」というくらいがちょうど良いです。
そして基礎練習時もやはり休憩をこまめに取ることを絶対に忘れないようにしましょう。少し吹いたら必ずマウスピースを口から離す。一回吹いたら数分開ける(この時間にフィードバックをし、次の目標を設定する)など頭を使って健康でい続けられるように心がけてください。
そして予定していた基礎練習を終えたら次にすすむ前には大休憩を取りましょう。
今回のお話しは長くなりそうなので、この続きは来週お話しします!
ぜひ引き続きご覧ください。それではまた来週!
荻原明(おぎわらあきら)
[今週末]オンライン講習会2021
7月3日(土)トランペット第5回/7月4日(日)楽典第5回
今年のオンライン講習会チケットはリアルタイム(参加自由)とアーカイブ配信がセットになっておりますので、1回分お値段が安いフリーパスをご購入されるのが最もお得です!楽典は詳細に作られた資料もプレゼント。ぜひ今からでもご参加ください!
詳しくはこちらの特設ページをご覧ください!
0コメント