さて前回までは音楽に関連する様々なお仕事を紹介しました。
将来音楽の道に進みたい!と考えている方や、すでにその道を志している方に少しでも参考になればと思い書いていますが、個人的な見解で書いているところも多いので、「そんな考え方もあるのか」程度に気軽に読んでもらえればと思います。
エンタメは時間の奪い合い
以前ラジオでどなたかが「エンターテイメントはお客さんの時間の奪い合い」と言っていました。例えば同じ日同じ時間に違う場所で同時にコンサートを開催した場合、その両方にお客さんが興味を持ったとしても、行けるのは物理的にどちらかひとつ。しかもどれだけ「行きたい!」と思うコンサートだったとしても、どれだけ素晴らしいものが用意されていたとしても、スケジュール、体力、距離、金銭など様々な条件によって、実際に来場できる人には限界があります。エンターテイメント分野にはそうした条件が常につきまとっているのです。
しかし近年様々なものがデジタル化をしたことで音楽の世界でもインターネット配信や過去のアーカイブ動画、その他電子化された媒体によって、個人の余暇時間に視聴などができるようになったため、この「時間の奪い合いも」少し緩和したように感じます。ただ、音楽における生演奏、会場でのライブにはデジタルとはまったく違う魅力があり、その価値は時代の変化と関係なく重要な存在であるために、他のエンタメコンテンツに比べると完全デジタル化は現時点では不可能だと思います。そうなると結局時間の奪い合いはどうしても発生することになります。
トランペットの絶対数
関東圏にある音楽大学の中でトランペットを専門に学んでいる学生の1学年の合計人数を仮に50名程度としましょう。その50名が毎年卒業し、社会に出るわけです。これが昔からずっと繰り返されていて、今現在音大のトランペット専攻を卒業した人は果たして何人いるのでしょうか。もちろん、その全員が音楽の道に進んでいるわけではありません。しかしそれを差し引いても音楽の世界にはすごい人数のトランペット奏者がいます。この人たちが様々な場所で様々に活動しているわけですから、かなり飽和状態なのがわかると思います。エンタメはお客さんの時間の奪い合いですが、トランペットの世界でも(言葉が適切かわかりませんが)仕事の奪い合いが発生しています。でもこれは、音楽の世界にたくさんの個性が溢れていると考えれば、とても魅力的なこととも言えます。
しかしその中にいるトランペット奏者からしてみれば、埋もれてしまう怖さがあるのは当然で、この飽和状態の中でどのようにして自分の活動領域を確保するかがポイントになります。何が必要か考えてみましょう。
1.つながりをたくさん作る
前前回の記事で、例えば寄せ集めのオーケストラなどは奏者同士のつながりで声をかけられることが多いと書きました。それだけでなく、音楽ジャンルを超えてたくさんの人とのつながりがあれば、それだけ何らかの可能性は広がる、というわけです。これは八方美人になれ、ということではありません。たくさんの人と良い関係を築く努力をしてほしいということです。
2.積極的なPR(コンクールなどへの参加)
積極的にコンクールやオーディションなど、様々なイベントへ参加することは大切です。もちろんこの場合は参加しただけではあまり意味がなく、何らかの結果を残す必要があります。
結果を残すと言えば、コンクールだけでなく、ひとつひとつの与えられた仕事を確実に、そして丁寧に(場合によっては迅速に)行うことも大切です。
3.積極的なPR(様々な媒体を駆使する)
自分をアピールする方法はたくさんあります。主にインターネットの中ですが、SNSやYouTube、ブログ、ホームページなどを上手に使って自分の存在をたくさんの人に知ってもらう、というのは絶対にすべきです。私自身がこの方法で存在をアピールし続けているので余計にそう思ってしまうのですが、多くの人が面倒になってあまり使っていません。これは本当にもったいないと思います。
少し前までの学校教育や大人の間ではインターネットを悪と定めている傾向にありました。個人名をインターネットに晒してはいけない、SNSは怖いもの、よくないもの。これらは単に有効な使い方を説明できない(学ぼうとしないだけの)身勝手な大人の行為でしかありません。こういった流れは大昔からあり、「これまでになかった新しい文化や技術」が生まれるたびに、時代に取り残されてしまう恐怖から一部の大人たちが権力を使って根拠なく子どもたちに対して「悪であると」使用を禁止していたものです。馬鹿馬鹿しいですね。
今現在インターネットやスマホに対してどの程度教育機関は寛容になっているのかわかりませんが、音楽家を志す若い人が自分をアピールする目的でインターネットを有意義に活用できている人がとても少ないと感じます。考え方や意見は様々だと思いますが、音楽の道に進みたいのであれば、インターネットを真面目にフル活用することはこれから先絶対に必要だと思うのです。
4.できることを増やす
「私は演奏家になりたいから楽器の練習を一生懸命やる!」という意気込みは大変素晴らしいのですが、正直なところ「演奏レベルが高い」はアピールポイントとしての価値はあまりありません。なぜなら上手な人がめちゃくちゃ多いからというのと、一般的な見られ方として「プロは上手なのが当然」という認識があるからです(本当は全部が全部そうではないのですが)。
もちろん演奏技術の向上を目指す努力は絶対に必要なのですが、私としてはそれ以外にもできることをできるだけたくさん増やす努力も同時にしてほしいと思っています。例えば私の場合ですが(クオリティはともかくとして)演奏以外に「レッスンができる」「文章を書く」「楽譜の浄書をPCでできる」「編曲ができる」「音楽に関連する資料をPCで作れる」「ホームページを作れる」「オンライン配信や吹いてみた動画を編集するための機材と技術を持っている」などです。私はこれらを駆使してこの業界に生き残っています。私はトランペットの演奏が長けているなんて全然思っていません(演奏できないとは言っていない)。私より上手な人なんて何十万人も何百万人もいることを理解した上で、演奏技術に対しても自分なりの努力を怠っていないだけです。
トランペットを真剣に練習するのは当然ですが、若いうちからそれだけに絞らずに「ピアノをたくさん練習する」「音楽理論をきちんと習得する」「音楽に関する様々な知識を得る」「たくさん本を読む」「たくさんの音楽に触れる(ジャンル問わず)」「世の中の新しい技術に積極的に触れる」「経済やマーケティングの勉強をする」「たくさんの人と接する」など、そのクオリティは別として、インプット/アウトプットを積極的に行い、とにかくたくさん経験すべきだと思います(その結果、寝る時間がなくなったり休日がなくなるのですが)。それでもなお音楽に関わっていることが楽しいと感じられるかが一番重要かもしれません。
ちなみに、音楽の表現力を高めるためには上で挙げたような様々な経験が必要になります。楽器が上手になるために楽器の練習をするだけでは足りないのです。
5.演奏技術を上げる
これを最後にした理由は2つあります。ひとつは「当然すぎるから(書く必要もないから)」、もうひとつは「この業界で生き残る術としては絶対に必要なものではないから(下手で良いなんて言っていない)」です。誤解されそうなので早々に説明しますが、高い演奏能力は必要ですから、練習は絶対にしなければなりません。しかし、多くの若い人は多かれ少なかれ「音楽家になるために人生の時間すべてをその楽器の練習に費やす」傾向に考え方がなってしまっている感じがしますが、それは少し昔の話だと思うのです。先ほどの「4.できることを増やす」でも書いたように、音楽の分野も多様性が求められています。
自分に与えられた時間は限られています。あまりにたくさんのことに真剣にチャレンジしすぎると息切れして挫折してしまいますから、最初は深入りせず、まずは何にでも浅く触れて、自分がどんなことに興味があるのか、熱中できるのか、それを見つけてください。若いうちのほうが自由に使える時間は多いので、将来音楽に関係する仕事に就きたいと思っている方はぜひ大きく手を広げてたくさんの経験をしてほしいと思います。
ということで今回はここまで。
音楽の仕事についてのお話はまだ続きます。ぜひ次回もご覧ください。
それではまた来週!
荻原明(おぎわらあきら)
トランペットオンライン講習会9月11日(土)開催「アーバン/華麗なる幻想曲」を演奏しよう
「アーバン金管教則本」の著者、ジャン=バティスト・アルバンの残した「12の幻想曲とアリア」から「華麗なる幻想曲」を課題曲としてオンライン公開レッスンを聴講していただく全2回のシリーズです。音楽大学の入試課題曲にもなっている作品と聞くと気後れしてしまう方もいらっしゃるかもしれませんが、「歌う表現」「フレーズの捉え方」「強弱の解釈」「タンギングの基本」「ダブル、トリプルタンギングの実用性」など、学べることがたくさん含まれています。 2回に分けてイントロダクションから第3ヴァリエーションまでのすべてを演奏していただきます。
今回は現役音大生が生徒さん役を務めてくださいます!
これまでのオンラインレッスン形式による講習会の様子です。
詳細は荻原明オフィシャルサイト内にございます特設ページをご覧ください。
1回分お安くなっているフリーパスをお求めいただければこれまでのアーカイブもすべて視聴することができるのでおすすめです!ぜひご参加ください!
この回のみの単発購入はPeatixにて承ります
皆様にオンライン上でお会いできることを楽しみにしております。ぜひご参加ください!
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