#144.相手の言葉がわからなければ「要するにそれってフィルター」を使ってみましょう。

例えば合奏やレッスンなどで先生や指揮者から、


「そこはもっと春の息吹のような演奏をして」

とか

「小人が踊っているように」

とか

「どろどろとした中をもがいているような」


など、独自の世界観や抽象的な表現で指示や指摘をされた経験はないでしょうか。指導者さん次第ではあると思いますが、みなさん少なからず「わかりにくい指示」を受けたことはあると思います。ちなみに上記の言葉は私が適当に思いついた言葉です。わかりにくいですね。


僕自身もレッスンで抽象的な表現をすることは多いです。「ジャンプするイメージ」「音の重さ」「お客さんの耳がその音へ向く」など。解説を入れながらですが、どのくらい共有できているかは未知数です。


なぜ言葉で伝わりにくいのか。それは、その人の持っている語彙と、受け取る側の持っている語彙のストックに相違がある点と、ストックしている単語であってもその人の頭の中にある国語辞典(単語に対する理解やイメージ)がそれぞれ違う可能性があることが挙げられます。


例えば冒頭に出てきた「そこはもっと春の息吹のような演奏をして」の「春」という単語、あなたはどんなイメージを持ちますか?


・桜

・ピンク

・卒業式(別れ、旅立ち、緊張、懐かしい、疲れた、こりごり)

・入学式(出会い、喜び、緊張、初々しさ、可愛い、懐かしい)

・花粉(つらい、痒い、涙、鼻水、薬で眠い)

・嬉しい/悲しい/辛い


上記は僕の頭の中の国語辞典から出てきたものですからこの程度ですが、他にも数えきれない数の「春」に対するイメージがあるはずです。

最後の「嬉しい/悲しい/辛い」は何かと言うと、例えば「春の桜の木の下で告白された」経験があるとして、付き合うようになった経験があれば嬉しいと感じるかもしれないし、逆もありますよね、ということです。ここまでくると季節とかあまり関係なくなってくるとは思いますが、このように言葉、単語というのは、同じものでも人によって捉え方、感じ方が大きく異なるため、伝える側はあらかじめ「言葉には自分の真意をそのまま受け止めてくれるとは限らない」と理解しておく必要があります。


伝える側の配慮

ですから伝える側は「伝えた言葉をどのような意味で使っているのか」を明確に伝えるために単語ではなく文章にすると良いと思います。例えば「春」だとしたら「のどかで、あたたかく、のんびりした春の雰囲気を表現してください」とか。

それに加えて、実際に歌や楽器で演奏してみたり、表情や体をフルに使って誤解する人が減るよう工夫をします。

また、相手が知らない可能性が高い言葉を使うと「何を言ってるのかよくわからない」となってしまいます。わかりやすい例としては、世代が離れすぎている内容(今の子どもに昔のアニメの話をするなど)や、未成年の人に酒の話をするような感じです。


受け取る側の工夫

受け取る側は、相手の言葉を自分の国語辞典で解釈すると、誤解が生じる可能性があることを理解しておきましょう。

理解できない言葉、初めて聞いた言葉が出てきたら、わからないからいいや、で済ますのは良くありませんし、「すいませーん、何言ってるのか分かりませーん」と言うのもその場の雰囲気的にどうかと思います(相手との関係によりますが、それでなくても合奏や指導の進行を止めてしまうのはあまり良いことではありません)。


では、どうするか。

言葉と思考のフィルターを通して理解する、という方法を取ります。これを私は「要するにそれってフィルター」と呼んでいます。


「要するにそれってフィルター」を通す

これは相手の言葉が理解できない時、「要するに」「それって結局のところ」を文頭に置いてみる行為です。フィルターを通して自分の持っている語彙に変換したり、自分がわかる世界観に変えてしまうのです。


お互いが一字一句完璧に意思疎通ができている必要もありませんし、そんなこと不可能ですから、結局のところ相手のイメージの方向性さえ合っていればお互い幸せなのです。

「ここは酔っ払いが気持ち良く歌ってるシーンなんだ」と言われて、酔っ払った経験がないのであれば、「ようするに楽しい演奏をすれば良いのだな。じゃあ、友達と楽しい時間を過ごしている気持ちで演奏してみよう」などに変換してみましょう。もしかするとそれだけでは足りないので新たな言葉による要求があるかもしれませんが、同じことを繰り返して、できるだけ意思疎通を図っていきます。

ちなみに先ほどの「酔っ払い」ですが、レスピーギ作曲「交響詩『ローマの祭り』」にトロンボーンソロとして本当に出てきます。


「最愛の人を亡くしてしまった悲しい作品なんだよ」と言われても、そうした経験がないのであれば「じゃあ、映画で涙がこぼれて悲しかったあのシーンを観た時の気持ちを思い出して演奏してみよう」に変換するのです。


皆さんもぜひ「要するに」「それって結局のところ」などを使って指導者や指揮者が何を伝えようとしているのかを考え、良い意味で都合良くフィルターを通したイメージ変換をしてみてください。



荻原明(おぎわらあきら)

[アンサンブルの基本を学ぶ対面式の少人数制講習会]
3月26日(土)、27日(日)第3回トランペットアンサンブル講習会「ハーモニーの作り方、チューニング」開催


毎月テーマを変えて開催しているトランペットアンサンブル講習会の第3回目。テーマは「ハーモニーの作り方、チューニング」です。美しい和音を作るために必要なことを解説、実践する対面式の講習会。現在両日とも残席1となっております。ぜひご参加ください!

詳細や今後の開催内容につきましては以下のリンクをご覧ください。

ラッパの吹き方:Re

隔週土曜日の朝更新トランペットと音楽についてのブログ「ラッパの吹き方:Re」 タイトルの「Re」は「Reconstruction(再構築)」とか「Rewrite(書き直し)」の意。 なので「ラッパの吹き方 ”リ”」と読んでください。 荻原明(おぎわらあきら):トランペット奏者、東京音楽大学講師、プレスト音楽教室講師