トランペットを吹いている皆さん、楽器は難しいですか?
「難しい」という焦点をどこに定めるかでだいぶ意見が分かれるところではありますが、「何で思うように鳴ってくれないのだろう」とか「すぐバテてしまう」とか「音域変化が上手くいかない」とか、いわゆる基礎的なところで行き詰まることが多いように感じます。
「練習を重ねていけば少しずつ上達していくだろう」とか、いつか努力は必ず報われると考えたり、一方で結果が伴わないところをクローズアップしすぎて「自分はトランペットに向いていないのでは」と懐疑的になったり、レッスンをしているといろいろな考えを持った方にお会いしますが、結局のところ楽器から音を正しく鳴らすための原理と条件はそれほど複雑なものでは決してなく、正しい原理を理解し、それを自分の体で実現するための感覚的な研究を続けていけば、方向性が見えてきたり、一歩進めた感覚は結構すぐに手に入れることができます(ただしクオリティの向上には決して終わりがありません)。
ではなぜトランペットが難しいと感じやすいのか。今回はその理由のひとつを解説します。
トランペットに絶対必要な要素とは
皆さんはトランペットから音を出すために絶対に欠かすことのできない直接的に働く人間の体のパーツや、人間が用意しなければならないものをひとつひとつ抽出し、さらにそれぞれがどのような働きをしているのか、考えたことはありますか?
どこまで細かく考えるかによって変わってきますが、ざっくりと「唇」「歯」「体内の取り込んだ空気圧(そのための腹筋)」「舌」。だいたいこのような感じではないでしょうか。
これらに加えて「マウスピースのリムが唇とぴったりくっついている状態」など、セッティングについて大切なこと、すべきこと、楽器と人間の関係についても考えてみます。
ベストな範囲が限定的だから難しく感じてしまう
絶対に必要な要素には、さらに「絶対に必要な分量」も当然存在します。例えば「体内の空気圧」。これをコントロールしている元はいわゆる腹筋(=腹圧)ですが、では必要だからと言って腹筋にこれでもかと力を込めてしまえば、トランペットに必要な空気圧の範囲を超えてしまい、バランスが大きく崩れて音が鳴りません。
必要なものなのに、多すぎると機能しないのです。
じゃあ空気圧が多過ぎたので減らそうと、これでもかと低い圧力しか発生させなければどうなるか。仮に音は出たとしても、それで演奏し続けられるかといえば難しいと思います。
このような「加減」について、レッスンで最も多いパターンとして、ハイノートを目指そうとすると体中に過度な力を発生させてしまい、また、私が良く言う「力なんて本当に少ししかいらないんですよ」という言葉だけが一人歩きしてしまい(私の言い方の問題もあると思いますが)、力を使わな過ぎてできることもできなくしてしまうバランス崩れが起こることも少なくありません。
少し前にこのブログで書きました「レシピと楽譜」という記事にも関係することですが、体の使い方も料理のようにバランスが非常に大切です。
こちらの記事もぜひご覧ください。
料理をしていて、塩を効かせようととんでもない量を入れてしまったら食べられなくなってしまいます。だからといって「塩分は体に悪い」「塩分は少ない方がいい」という呪縛で結晶1粒入れているようでは何の意味もありません。許容範囲はあるにせよ、バランスというものがそこには存在します。しかも味というのは塩の分量だけを見て完結するわけではありません。食材の分量、食材の持っている味、ダシをどれくらい効かせているか、コショウはどのくらい入れているのか、そもそもどんな味を目指しているのか…。自分の目指す理想を元にして様々な要因とのバランスを取ることこそが大切です。
これ、トランペットの演奏もまったく同じこと。
トランペットは頑張りすぎてプラスに行き過ぎても、本来必要な部分が欠落するほどのマイナスになっても理想の結果になりません。自身の目指す演奏をしっかりと持って、何が必要なのか、それらがどのような働きを持っているのかを理解した上で、バランスを取っていく。これを感覚的に再現できるようになると安定した演奏を何度も再現できるようになります。
トランペットの様々な許容範囲というのが非常に狭いところにある、これがまさに「トランペットが難しい」と思われる一つの要因です。研究や実験、そして練習を重ねてこれらのバランスを見つける時間を確保してください。ヤミクモに吹き散らかしたり、何も考えないで「上手くいかない!」とイライラしたり嘆くのではなく、そして不安定なバランスを見て見ぬふりをして曲ばかりを吹くこともおすすめしません。
退屈な時間になるかもしれませんが、安定するバランスを一度見つけることができれば、その先には自由な演奏が待っています。
レッスンでもこれが見えてきた時、みなさん「すごい楽に演奏できる」とおっしゃいます。ぜひみなさんも研究してみてください。
それではまた来週!
荻原明(おぎわらあきら)
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