#092.ベルが極端に下がる(後編)

前回の記事から「ベルが極端に下がる」と題して、トランペットを演奏している時にベルがとても下がっている状態の問題点と、なぜ起きるのか、その理由を挙げています。今回はその続きですので、前回の記事をご覧になっていない方はぜひそちらからお読みください。

その前回の記事にも書きましたが、本来奏者ごとにベストな楽器の角度(の範囲)というものが決まっています。その角度から離れた構え方をすると本来必要のなかった体の工夫、例えば顎を突き出しなどが必要になり、それらは全て体の負担、音色や演奏コントロールの不自由さを生み出してしまうのです。


ベルが下がることで起きる最も大きな問題点は下唇が支点になることで顎の自由が奪われてしまうことです。トランペットを演奏する際、これは絶対に避けるべき状態です。

ということで、前回の続きです。



原因3:楽器が重い

特に小学生や体の小さな中学生が、単純に楽器が重くて支え切れずに下がってしまいう状態です。

姿勢が悪い人に「姿勢が悪い」と言っても絶対に直らないのと一緒で、「ベルが下がっているよ」と気が付いた時に言っても、まず解決はしません。だからと言って即効性のある解決策はないのですが、まずは本人の「自覚」が重要だと考えます。音の出る原理を正しく理解し、ベルが下がっていては思うように演奏できないとわかっていれば、わざわざ吹きにくい状態で練習しようなど考えないはずです。


もうひとつはコルネットからスタートする方法です。重さは同じでもコルネットのほうが短いのでベルが下がりにくくなります。もしかするとこれが最もシンプルで有効な解決策かもしれません。


そして、安直ではありますが腕立て伏せなどで肩周辺の力を付けることも必要かもしれません。

実は楽器に装着して椅子や専用のベルトに装着して演奏する棒状のスタンドもありますが、金額的にも少々現実的ではないようにも感じますし、それよりもやはり構え慣れて筋力をつけるほうが必要と考えます。



原因4:練習時の姿勢「譜面台の高さと距離」

譜面台が低いと構えた時にベルで楽譜が見えない部分が生まれてしまい、気がつくとその奏者本来のベスト角度ではないベルの角度になっていることはよくあります。では譜面台の高さと距離のベストとはどの辺りか、というお話は以前このブログで詳しく書いておりますので、ぜひご覧ください。

しかし、吹奏楽部などを見ていると、譜面台が近すぎ、低すぎが非常に多いです。あと、斜めに置くのもよくありません。これは指導者が正しい位置を徹底して伝えるべきだと思います。



原因5:譜面を見るクセ

先ほどの譜面台の問題と関係しますが、例えば譜面台を異常に近くして演奏している人にもっと距離を離してみるよう伝えると「目が悪い」と言う人が結構います。教室の席替えなどで目が悪いから前のほうにして欲しいという人がいるのはわかりますが、楽譜に関して言えば「それなら仕方がない」とは言えません。音響的観点から考えると、譜面台を離した距離でも楽譜がきちんと見えるメガネやコンタクトを使用するなど、まずは個人でできる何かしらの努力をしてください。それは結局自分の演奏技術や成長と直結しているのですから、譜面の距離で調子悪くなったり、できることもできなくなってしまうのでは意味がありませんね。


また、視力関係なく例えば初見演奏や、読み間違えた時に楽譜にググッと顔を近づけてしまうクセがあると、その瞬間にベルが大きく下がってしまいます。これもよろしくありません。

譜面台は正しい距離と高さであり続けるように心がけましょう。



原因6:練習環境

これも部活動のことですが、特に個人練習時などで譜面台を使用しないことが日常になっている学校があるようですが、これは絶対にやめましょう。机や椅子に平面に楽譜を置いてしまえば、目も首も腰も全部下を向いて楽器も真下を向きますから、この姿勢できちんと演奏などできるはずがありません。

譜面を見て演奏する吹奏楽やオーケストラでは、必ず自分の前に譜面台を置く。これは絶対に守りましょう。



原因7:指導者の勉強不足

マーチングは別として、未だにトランペットのベルの高さを真正面に統一させて演奏している団体が、特に小学校と中学校に多いです。普通に考えて、歯並びも体格も違うのですから、奏者全員が同じベルの角度になるなどありませんし、しかもそれが真正面で揃うという可能性はまずゼロです。

なぜベルの高さを真正面に統一させているのか、その理由を尋ねたことがあるのですが、返ってきた回答は驚愕の「音を遠くへ飛ばすため」でした。ベルからボールか矢でも飛ばすつもりなのでしょうか。


音楽を指導する以前に、音とは何かを学ぶべきです。


そうした勉強不足の指導者の下、ベルの高さを強制的に統一させる指示により、子どもたちはみんな顎を前に突き出し、それによって首が張り、喉が潰れ、視線は貞子のように見開きながら下を見ているような異様な光景になっています。この状態でどうやって良い演奏ができるのでしょうか。


指導者は正しい理解をしてこそ指導者であると思います。



ということで2週に渡ってベルの角度について解説してみました。

あなたのベストな角度をぜひ研究して見つけてください。

それではまた来週!



荻原明(おぎわらあきら)

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隔週土曜日の朝更新トランペットと音楽についてのブログ「ラッパの吹き方:Re」 タイトルの「Re」は「Reconstruction(再構築)」とか「Rewrite(書き直し)」の意。 なので「ラッパの吹き方 ”リ”」と読んでください。 荻原明(おぎわらあきら):トランペット奏者、東京音楽大学講師、プレスト音楽教室講師