#101.新入部員のパート決め 4「歯列矯正について」

現在、吹奏楽部の新入部員の楽器決めのお話をしております。人気のある楽器に集中しないための対策や、前回の記事では、その人のフィジカル面(肉体的な側面)から特定の楽器を演奏させない指導者がいるけれど、果たしてそれらが真実なのか解説しました。そちらの記事もぜひご覧ください。

そして今回は「歯列矯正とトランペット」についてお話します。



[歯列矯正とトランペット]

新入部員の管楽器を希望する人全員に、現在歯列矯正をしているか、もしくは、今後引退までの間に歯列矯正をする予定があるかは聞いておくべきです。


単刀直入に言いますと、歯列矯正をしながらトランペットを演奏するのはどのような状態であれ大変に難しいことだと思っています。


僕自身指導者の立場で、ある日突然部員の子が歯列矯正を始めたという事態に遭遇したことが何度かあります。歯列矯正は小中高校生の頃にスタートすることが多く、そして本人も親御さんも管楽器の演奏と歯並びが重要な関係を持っていて、矯正器具が上達の足かせになるなど普通はわからないためにこのような状況になるわけです。


もし仮に、上級生など主力メンバーが突然歯列矯正をして思うように演奏できなくなってしまったら、ただでさえ今の時代、吹奏楽部全体の人数も減っているので、バンド全体にも影響が出てしまう可能性も容易に想像できます。

ですから、例えば保護者会や部活便りのようなものでこの話は事前にしっかり伝えておくほうが安心だと思います。


では、矯正しながらの演奏がなぜ難しいのか具体的にご説明します。


1.マウスピースとの関係

トランペットは、マウスピースのリムと前歯の位置関係で安定させることが前提の楽器です。ということは、前歯の外側にデコボコとした器具が装着された場合、位置を安定させることができないのです。また、マウスピースを唇に当て続けていれば、器具が唇の裏側の粘膜を傷つけ続けてしまうわけで、これは健康的ではありません。


2.舌との関係

では歯の裏側に装着していればどうかと言いますと、これも残念ながら演奏に困難が伴います。

トランペットの演奏はいわば「空気圧コントロール」です。舌をコントローラーとして、上顎との空間作りや前歯との密着により口の中の空気圧を変化させて音域を変えたりタンギングを行います。

したがって、上顎に器具が装着されている場合も同様で、結果的に明確なタンギングが難しいことと、出せる音域が限られてしまい、特に高音域はとても難しくなります。


3.歯並びの変化

前述の通りマウスピースのリムと前歯によって位置や角度が決定します。これは、他の人にはわからないほんの少しの差でも演奏に大きな影響が出るため、歯列矯正という大掛かりな歯の移動や変化は、マウスピースを当てるベストな位置が常に変化していくことになり、場合によっては常にスランプ状態が続くかもしれません。

ですので結論を言うと、歯列矯正をしている人、これからする人は残念ながらトランペット以外の歯列矯正中でも演奏可能な楽器を担当したほうが良いと思います。と言っても、どの楽器が可能なのかは存じませんので、それぞれの楽器の専門の方に相談してください。


矯正が終わった人も注意

個人レッスンにいらしている方の中に、矯正をしている、終わったという方がこれまでに数名いらっしゃいまして、特にその内の、歯の裏側に矯正器具を付けていた(付いている)方の特徴とも言えることが2点あります。


1.タンギングが弱くなりがち/ノンタンギングになりがち

矯正器具が歯の内側にあると、当たらないように無意識に舌を小さく、そして奥に引くクセがつくようで、そのために前歯と舌の関係性が非常に強いタンギングが上手くいかなかったりノンタンギングになる場合が多いように感じます。

今回のようなお話をして、かなり意識してもらうとキレイな発音ができるので、これはもう常に意識し、慣れていくしか方法がないと思います。


2.高音域が苦手

これも上記と同様の理由で、舌を小さく奥に引いていることが理由です。音域変化に必要な口の中の空気圧変化に必要な舌が小さくなっていれば空間は広い状態が常態となり、高音域が出しにくいのです。

また、舌を奥へ引く力は、結果的に喉を絞めることにつながる可能性もあるため、空気圧コントロールがより難しくなります。

そのため、僕はレッスンで、トランペットを吹く時以外にも舌の位置や幅を意識して欲しいと伝えます。舌は基本的には力を入れていなければ前のほうにあって幅もあるはずなので(個人差はあります)そのニュートラルな状態に戻す意識をして欲しいとお話しています。


ということで、新入部員のパート決めのお話の最中ではありましたが、トランペットにとって非常に重要なお話だったので1記事使わせてもらいました。歯列矯正をされている方、これからされる予定の方、矯正が終わった方、そしてトランペット指導に関わる方はぜひ覚えておいてください。


新入部員のパート決めのお話、もう少しだけ続きます。

それではまた来週!



荻原明(おぎわらあきら)


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ラッパの吹き方:Re

隔週土曜日の朝更新トランペットと音楽についてのブログ「ラッパの吹き方:Re」 タイトルの「Re」は「Reconstruction(再構築)」とか「Rewrite(書き直し)」の意。 なので「ラッパの吹き方 ”リ”」と読んでください。 荻原明(おぎわらあきら):トランペット奏者、東京音楽大学講師、プレスト音楽教室講師