現在、吹奏楽部の新入部員の楽器決めのお話をしております。人気のある楽器に集中しないための対策や、前回の記事では、歯列矯正をしている場合はトランペットを担当させられるかしっかり考えるべき、というお話をしました。これまでの記事は以下からご覧ください。
今回は「新入部員のパート決め」第5回目です。
天才、才能?
楽器選びの方法の中に、「いきなり音が出せた人を優先してその楽器にさせる」というのを耳にしたことがあります。その考えを持った方ときちんとディスカッションしたことがないので一方的な印象として、ですが僕は疑問に感じます。
少々話は逸れますが、僕は「天才」はいないと思っています。天才という言葉は、ギャップ要素とセットになった本人のこれまで生きてきた経緯などを無視した客観的な肩書きのような存在で、
==天才と呼ばれる際の典型的な条件===============
ギャップ
『若いのに/初心者なのに/説明もほとんどしていないのにetc.』
+
事実
『できてしまった/こなすことができる/スムーズである』
+
比較
『自分にはできないのに/できなかったのに』
==========================================
これらの要素が合体すると人は「天才」という言葉を口にします。天才と呼ばれた本人の意思や意見はおいてけぼりにされるのがセットです。
生まれてから意図的に学ばせたこともあるとは思いますが、見てきた絵本や絵画、映像、体験してきた運動、会話、話してきた言葉やその内容、そうした生活すべての経験の積み重ねと応用で、教わってもいないのに特定の何かができてしまうことはあるはずです。
そう考えると、楽器を持たせたらいきなり音が出た人は天才ではなく、言葉が正しいかわかりませんが経験と努力の積み重ねと言えます。
これにより僕が最も危惧するのは、では楽器からすぐ音が出なかったら、あなたは才能がないからと、希望楽器にさせてもらえない状況になることです。これは避けたい。
僕の経験上、正しい理論と方法を知って実践すれば誰でも音はすぐ出ます。それを「教えずに音を出せた人を優先」してしまうは、指導者自身が発音原理の知識がないと言っているようなものだし、教えることを放棄しているとも感じ取れてどうも納得がいかないのです。
同じようにして「リズム感が良い」人を優先して打楽器にする話も耳にしたことがあるのですが、これもどうなのでしょうか。
確かにリズム感が良い人とそうでない人、体の動きがリズムに合う人と、それがとても難しいと感じる人はいるのですが、結局はこれも経験とトレーニングだと思います。たくさんの音楽に触れて、自分自身もその音楽を体感し、体験していくことで成長するものだと考えます。そもそも、打楽器はリズム感が大切で、それ以外の楽器は打楽器ほとリズム感がなくても良いとでも言うような判断なのが疑問です。例えばテューバがマーチで4分音符しか出てこないからリズム感がなくても大丈夫か、と言ったらそんなはずがありませんね。リズム感というのは自分が演奏するリズムを表現できることだけでなく、楽曲全体の、他のパートを感じる力でもありますから、リズム感の優劣で楽器を決めることはできないと考えます。
音楽が好きで、演奏がしたくて吹奏楽部に入ったのに、才能だ、センスだといきなり言われて優劣をつけるのはどうかと思います。そもそも才能をのばすのもセンスを磨くのも入部してからスタートすることですし、そもそも吹奏楽部はプロを要請するところではありませんから、まずはみんなが音楽を楽しめる環境作りをすることが大切です。
経験者の優遇
小学校の時、中学校の時にその楽器を担当していた、として継続して同じ楽器を希望するのであれば確かに優遇してもいいかもしれませんが、何をどうやって教わったらそんな吹き方になるのだろうか、と目を疑うセッティングをしている人が多いのも(経験則ですが)事実です。特に小学校から始めた人にその傾向が強い印象があります(もちろんそうでない人もいます)。
こうした人は、一旦吹き方やセッティングなどを学び直すことになり、それまでのクセと正しい吹き方のジレンマに悩まされる時間が長く続くかもしれません。
ついでに書きますが、最初からマイ楽器を持っている場合は別として、希望の楽器になりたくて(他の楽器になりたくなくて)入部直前に楽器を購入するというのは、きちんとした経緯や理由があるなら別ですが、そうでない場合は姑息だなと思います。
まとめ
長々と5回にも分けて書きましたが、要するに担当楽器を選ぶ際は、全ての楽器は素晴らしく、魅力的で、必要な存在であると理解してもらった上で、楽器からすぐ音が出るとか出ないとかではなく、まずはともかく本人の意思を尊重することが大切である、ということです。
その先は指導者と部活動の環境次第。
ということで、少しでも参考になったら幸いです。
また来週!
荻原明(おぎわらあきら)
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